バタン。 夜の静寂(しじま)にドアの開閉音が響いた。木製の古びた客室にはベッドがふたつ。傍らには小さなテーブルにスツールが並んでいた。 カオリは窓際に歩いていき、施錠の確認をする。覗いた外界は寂しく闇に沈んでいる。 カオリはふっと呼吸をすると胸元のボタンに手をかけた。 ダンクスが部屋に戻っても、やはり眠気は襲ってこなかった。観念して自分の部屋に帰ってきたのはそれから30分ほど後のことだ。 30分。もうどれぐらいの時間の間隔だったのか正確には思い出せない。 着ている服を脱ぎ、生まれたままの姿に戻ったカオリは、決して上質とは言えない毛布に身体を滑り込ませた。 飽食の国・日本と比較しても詮無いことだが、ひとり眠るベッドは素肌に冷たく固かった。しかしその文化の差異には徐々に慣れつつある。 スィメアに裸で眠る文化があるわけではない。それなのになぜこんな格好をしているのか。その訳は背教者事件の数日後に遡る。 ある朝自分の小屋で目覚めると、カオリはベッドで裸になっていた。眠気のために開眼してもしばらくベッドでごろごろしていたことが幸いした。……というかなんで? 変化に気づいたカオリは驚いてきゅっと毛布にくるまった。前日の行動を振り返ってみても酒を飲んだ記憶はない。寝ぼけて服を脱いでしまったのかと思い、そっとベッドの周囲を見回すと、散りぢりになった繊維が床に散らばっていた。 あちこちする胸部が気になってカオリは側臥位の体勢に寝転ぶ。 数日後にも同じことが起こった。覚醒すると着ていた服はすべて木っ端微塵。原因は不明のままである。 結論から言えば寝ているうちに知らない何かに変身しているのだろう。しかしそれはあり得なかった。カオリはまだ木に姿を変える能力しか持ち合わせていないためだ。もし木に変身したのだとしたら天井に穴が空いていてもおかしくないはずだが、そのような痕跡も見当たらない。 それにそれらの説はドリアードも否定していた。植物を操る能力は使用者のイメージが必要になるため、眠っているさなかの散漫な注意力では能力を具現化できないのだという。 幸いなことに身体や住まいの小屋に傷がついていたことはない。しかし数日に一度とはいえ、そのたび召し物を紙吹雪に変えてしまうのでは出費がかさんでしまう。このことから体調に問題がない夜は一糸まとわぬ姿で床についている。 ごめんソフィア。 ふたり部屋なのに別々に宿泊してもらった理由はまだ明かせずにいる。 身体は重いのに目だけがはっきりしている。まだしばらくは寝られないだろう。カオリはひとり観念すると、瞼を閉じてすっと肩の力を抜いた。