「グガァァァァアアア」 不気味な唸り声が濁流のように眼下を駆け巡っている。それはまるで地鳴りのように大地を揺るがし、山岳すらも鳴動しているように錯覚させる。ウィクルト平原を埋め尽くさんとする屍人たち。いつの時代に命を散らしたのだろう。英霊の成れの果ては列を成して進軍を開始した。向かう先は王都スィメア。彼が蛇蝎の如く嫌うセフィロト神殿もそこにある。 「哀れなものだな」 アポスタイトは自ら行使した魔力の行く末を崖の上から見送っていた。睥睨する眼差しに浮かぶのは憐憫と嘲笑の入り混じった複雑な色だった。 スィメア王都は深夜の屍人の襲撃に耐えかね、数日のうちに壊滅状態となるだろう。しかもかつて国防のために死んでいった英霊たちの手にかかって、である。 万骨(ばんこつ)枯れても戦いに駆り出される者たちには同情するが、寝耳に水で混乱のうちに死んでいく人間たちには笑いが止まらない。 生きた屍の数は万を数える。王都守護のために待機している聖騎士やスィメア騎士団がどこまで保つか見ものである。 「さあ、お手並み拝見といこうか。セフィロトの下僕(しもべ)ども」 アポスタイトは漆黒のローブのフードを脱ぎ、特徴的な2本の角を露わにした。風にアッシュグレーの髪が揺れる。手にした杖の先端部には黒い稲妻が球体を形成して輝いていた。 「せめて聖騎士ぐらいは皆殺しにしてくれよ。なぁあ!!」 アポスタイトの叫びが周囲に広がった。屍人たちは意に介さず、ただひたすらに城へと向かっていく。 魔将軍アポスタイトの復讐劇は、今ここに始まった。