「ロラン! 無事か!」 「マックレアさん!」 地面が大きく揺れ、マックレアは思わずその場にしゃがみ込んだ。 迸る閃光。弾け飛ぶタキシム。猛烈な破裂音にマックレアの鼓膜が震えた。 その場にいたはずの屍人がどこかへワープしたかのように跡形をなくしている。 聖騎士の秘術だ。マックレアは東の彼方を見やる。目に映る世界に無色の刃が突き抜けていった。タキシムの陣形は真一文字に大きく削り取られ、後続たちは地面に積もった仲間の残りカスに足元を取られそうになっている。先ほど辺りを明るく染めた光も同じものに違いない。 「大丈夫です。あの光は屍人にだけ効くようです」 マックレアの数歩前に陣取っていた第7隊の騎士ロラン・シュウザーは、白い光のなかでも動じず立ち続けていた。しかしその肩は荒い息に揺れ、手にした弓矢も狙いが定まりそうになかった。 「ロラン、何が起こった?」 マックレアは語気を強めた。ついに悪魔が姿を表したのだろうか。 ロランは首を横に振った。 「わかりません。先頭にいたガルファムによれば遠くで地面から這い出てきたのが見えたとしか」 言い終えるなりロランは咳き込んだ。タキシムは悍しい声を上げながら着実にこちらに向かってきている。 見える範囲でも横並び7列は屍人たちの陣形が続いていた。地面のなだらかなウィクルト平原ゆえどこまで続いているかもわからない。 先行する第7隊はすでに散りぢりだ。遠くにガルファム・シシーの振るう剣が見えるだけである。 マックレアは巨大な波の先端に向き直ると、両腕でグラフツァートセイバーを掲げ、鋒を天に向けた。ありったけの魔力を注ぎ込むと稲妻の光が集中して辺りを照らした。希望の光が並んで歩くタキシムの顔を照らし出す。醜悪な面は焼き爛れており見るも無残だった。 「豪雷剣っ!」 剣を身体の真正面へ向けた。明滅を繰り返す青白い球体が衝撃とともに飛んでいく。衝撃波が闇夜を切り裂き、球体は地面に落下する直前に爆ぜてけたたましい爆発音を拡散した。周囲数体は爆炎に消え、直撃を避けたタキシムたちも声にならない悲鳴を上げて夜空に舞い上がった。 追い打ちをかけるように東の空から飛んでくる光の波動。マックレアの一撃をかろうじて避けた者たちがまばゆい光に浄化されていった。 「助太刀します!」 後ろから黒い影が現れ、颯爽と戦場を駆けていく。サンダラスが柄の長い斧を振りかざし、先頭のタキシムの脳天を叩き割った。タキシムの頭部は呆気なく崩れ去り、連撃の薙ぎ払いで左右に並ぶ者たちとともに腰より上を切断されてしまった。 マックレアら第5隊が戦列に加わり、聖騎士の一部隊が加勢してくれているが、それでも多勢に無勢だった。この先どれだけのタキシムが並んで進んできているかわからない。しかも、それらを倒し切ったところでさらなる敵が現れないとも限らないのだ。 だが騎士に「逃亡」の文字はない。仮に無理だとしても死力を尽くすのが我らの役割。そうマックレアは自分に言い聞かせる。そして巨大な盾に持ち替えると、次々と敵を切り裂いていたサンダラスに声をかけた。 「サンダラス! 援護してくれ!」 「承知!」 ワービーストの同僚は掴みかかるタキシムの腕を躱し、高貴な黒髪をたなびかせてマックレアの背後に向かってくる。第5隊おなじみの手だ。マックレアは精神を集中して盾に力を込める。盾が光を帯びると、マックレアは真正面に駆け出した。 「うおおおおおおっ!」 盾の輝きは拡張して巨大な光の壁を形成する。壁にぶつかったタキシムたちは吹き飛んで次々と地面に倒れ込んだ。 「ええええいっ!」 盾の拡張が切れると、サンダラスが目にも止まらぬ速さで臥する屍人の首を飛ばしていく。 「そこか!」 ロランはその弓でマックレアらが討ち漏らした者たちを掃討していた。赤い鳥を纏った矢がタキシムの胸部を撃ち抜くと、僅かに残った肉の油に着火して炎上する。 「まだまだあっ!」 誇り高き騎士たちの咆哮が、夜空に伸びる迎え雷の如く天へと波及する。マックレアは力の限りに大剣を振り回し、横並びのタキシムたちを捻り潰していった。