頭が熱くなってきた。 息ができない。 視界がブレる。 身体が震える。 気を失いそうだ。 アリーファは朦朧とする意識のなかで何が起こっているのか理解しようと必死だった。ただ現実に待っているのは失神ではなく死。しかし移ろいでいく意識は楽になりたいと思っている。 このままじゃ……。 視界の奥に見えるのは鋭い眼光の男。神官長をも負かしたこの者は、人と悪魔のハーフなのだろうか。悪魔というにはあまりに人間の容姿に近い。目が赤く光って見えるのは、苦しみが見せる幻覚なのか。 悪魔の声が残響を伴いながら聞こえてくる。 「神などといういるのかいないのかすらわからないもののために命を賭すとは。そんな信仰など持たなければ死にはしなかったのによ」 なっ……。なっ……。 声を振り絞っても形にならない。 それでも……負けてはいけない。主を冒涜するものに裁きを。 アリーファは剣を持つ手に力を込めようとする。自分よりかなり大柄な相手にどうやって剣を突き刺せばいいのか……。 しかし握力は奪われ、意識したために却ってセイントリリィが地に落ちてしまう。 そこで視界に橙の輝きが迫ってきた。それはエネリスだった。彼女は死神だ。この程度のダメージではやられなかったのだろう。 エネリスは再び具現化させた鎌で背後から悪魔に斬りかかる。だがこれも無駄だった。 「学習能力というものはないのか。死神よ」 悪魔は動きを読んでいた。瞬時に発動させたバリアは鎌の先端すらも食い込ませない。 「お主……デビリッシュか」 鎌がバリアの光を破ろうと今も押し付けられている。しかし視界に入る限りではエネリスの動きが鈍っていた。やはり無傷ではいられなかったのだ。 「だったらなんだ。ああっ!」 悪魔は罵声とともに空いた左腕でエネリスを殴り倒す。 「うっ……」 地面に倒れ込んだエネリスの表情が歪んで見えた。そのモーションで僅かにアリーファの首元が緩む。しかし腕に力を入れるまでには至らない。 「なにが死神だ。雑魚が」 悪魔のブーツがエネリスを蹂躙する。腰部を踏みにじられて彼女の唸り声が聞こえてくる。 まるで赤子の手をひねるようだ。死神の力を以てしても勝てない。 強い……強過ぎる。まさか、この男が噂に聞く魔王……。 だんだんと声が遠ざかってきた。神官長の言葉の意味がなんとなく理解できてくる。悔しい。どうやってもこの悪魔には……。 「さて、そろそろ死んでもらうか。一緒に消え去るがいい」 ここまでか。 アリーファは瞼を閉じた。