カオリは鞘から剣を抜いた。 地に落ちた枝葉が踏みしだかれる音で敵の位置を把握する。巨木の裏を行くきのこの兵隊。赤い鮮やかな傘は見るからに毒々しい。 樹海と聞いていたため、多少ジメジメしていることは想定していた。しかしここまできのこモンスターの大群が跋扈しているとは想像もしていなかった。 カオリはひと呼吸し、木の植わった土手のように高く堆積した土に足をかける。 考えても見るべきだった。ドリアードはもう永くメルクマンサの森を出ていないのだ。世界を行き来する精霊の仲間からの伝聞を除けば、他所の森の生態系の変化を知る術などない。 剣を横に構え、ずんぐりむっくりのきのこ人間を見据える。柔い大根の先っぽのように、艶めかしい(?)四肢が生えている。重厚な足音から察するに怪力なのは間違いなさそうだ。 前面に人相の悪い目が2つ。視覚は要しているようだが、聴覚・嗅覚には疑問が残る。だから今もこうして見つからずにいられるわけだが。 「せーのっ!」 カオリは土を蹴って飛び上がった。心のなかで「ごめん」と呟きながら、巨大きのこに斬りかかる。 落下の勢いを受けてヴァイリーソードが赤い傘を切り裂いた。柄をするりと刃が真っ二つにしていくが、分厚いために一刀両断とまではいかない。しかし中央あたりで堅い感触を感じると、刹那、とけた発泡スチロールのようにどろどろな白が周囲に飛び散った。 「ちょっと何これー!」 ドロドロにとけてしまったきのこの兵隊のそれはなんとか避けることができた。しかし斬りかかると同時に吹き出したきのこの胞子が上半身を白く染めてしまっていたのだ。 カオリは慌てて体についた胞子を払う。今日は戦闘はないと思ってソフィアに借りた服を着てきたのに……。 カオリは綿に似た生地のノースリーブのシャツに、フレアのミニスカートを穿いていた。いずれもソフィアのお古だったが、ここまで汚してしまうなんて思っていなかった。 「ソフィアになんて謝ろう」 額を拭うと、カオリは静かに溜め息をついた。 だがこれで正解だったのだ。動き出すとは思っていなかったが、アラリック樹海には毒をもつ植物が多数存在しているため、耐性を持たないものは迂闊に近づけないのである。 服は汚してしまっても、ソフィアらを毒や麻痺の危険に曝すよりはよっぽどましであった。 やはりきのこの兵隊との戦闘は避けよう。 カオリは強く心に誓った。