カーテンを開けると雲1つない空が見えた。
快晴に少しテンションも上がり、軽い足取りでリビングへ繋がるドアを開けた。
テーブルの上には二人分の朝食が置かれていた。
椅子を引いて座ると、タイミングを測ったかのようにコーヒーが入ったカップが置かれた。
ワンプレートの上には、パンとカリカリに焼いたベーコン、スクランブルエッグと少しの野菜が乗っている。

「美味しそう!ありがとう裕兄」

「いや。今日から新しい学校だろ。今日くらいは送り出してやりたいからな」

「…嬉しいけど、その為にしなくていい徹夜したんでしょ?」

トントンと自分の目の下を指さす。
向かいに座った従兄弟である裕也の目の下にはくっきりと隈が浮かび上がっていた。

高校2年に上がりようやく慣れてきた頃、両親の海外転勤が決まった。
個人的には私も行っても良いと考えていたが、親は海外を飛び回るのに年頃の娘を付き合わせるのはどうかと難色を示していた。

そんな時、叔母が息子と暮らしてはどうかと提案してきた。
裕也は既に成人していてお堅い職業にもついているので、保護者代わりにはもってこいだと。
叔母はそう言ってくれたが両親は裕也が独身ということもあり、女子高生を住まわせるのはさらに婚期を逃すはめになるのではと最初断ろうとしたらしい。
けれど、裕也本人が今の仕事についている間は色恋事をする気はないと断言していた事と、仕事柄家を開けることが多いから、家の管理をするのも大変だと零していた事を持ち上げられれば断れなかったらしい。

こうして、久方ぶりに裕也と会い生活を始めたわけだが、本当に家を空けることが多く一緒にご飯を食べる事すら片手で数えられる程だった。
それでも見た目通り律儀な性格らしく、転入初日に合わせて休みをもぎ取ってきたらしい。

「そんなに目立つか?」

目元の隈に手にやり特徴ある眉根を寄せ険しい表情を浮かべる裕也にコクリと頷き返した。

「掃除とかは私が帰ってきてからするから今日はゆっくり寝てたら?」

「いや、今日は半休をもらったから、午後からは仕事がある」

「...社畜か。そのうち死ぬよ」

「上司に比べたら俺なんてまだまだだ」

「え、ならその上司さんの方が顔やばそうだね」

「…いや、あの人は….........そういえば、三徹、四徹を平気でするわりに疲れた顔をあまり見たことがないな。…こんな顔を見られた日には説教されそうだ」

ただでさえ顔色の悪い従兄弟が目に見えて青ざめていくのがわかった。
どうやらよほど厳しい上司らしい。

「なら、なおさら午前中だけでも寝てないとだね」

「…悪いが、そうさせてもらう」

「ううん。むしろ、徹夜してまで今日時間とってくれたの嬉しいし。朝食まで作ってくれてほんと裕兄には頭上がらないよ」

「いや、こんな軽いものしか作れなくて悪いな。和食を作れる程料理の腕に自信がなくてな…」

「ん?でもこの前冷蔵庫に入っていたやつすごい美味しかったよ?」

従兄弟とあまり顔を合わせる日はないが、たまに冷蔵庫の中にタッパに入った惣菜が入っていることがある。
食べていいとの事なので毎回有難くいただくが、とても美味しいのだ。
確かそのどれもが和食だった気がする。

美味しかったと従兄弟に改めて伝えると何とも言い難い表情を浮かべた。

「あれは…俺の上司が作ったやつだ」

「え?…裕兄の上司て女性だったの?!…それって裕兄アプローチされてるんじゃあ…私が食べて良かったのかな?」

「っ?!そんな恐ろしいことを言うな!降谷さんは男だ!」

今までにない慌てっぷりで裕也は立ち上がって距離を詰めてきた。
その目は瞳孔が開いている。

「そ、そうなんだ。わかったから、とりあえず座りなよ」

どうどう、と落ち着かせる。
裕也はハッと我に返り、気まずそうに席に座り直した。
しばらく沈黙が続く。
名前は頑張ったが堪えきれずに微かに笑い声がこぼれた。

「ゆ、裕兄の上司はよっぽど怖い人なんだね」

「そ、んなことは…そんなことはない」

最後は強く言い切ったもののあきからに動揺している。
今度は耐えることなく笑った。


ああ、今日も平和だ。
誰かと共に食事し、笑いあう、そんな何気ない時間がとても素晴らしく感じる。


「じゃあ、行ってきます」

「ああ。行ってらっしゃい 」

裕也に見送られ、家を出た。
事前に調べていた高校までの通学路を歩いていくとちらほらと同じ制服の生徒達が見えてくる。
なんだか、わくわくしてきた。
頬が緩むのを感じながら歩き続けていると、2〜3メートル程離れた所にいる女子高生2人組が目に入った。
1人は黒髪ロング、もう1人は茶髪のボブだ。
茶髪の子が何かを身振り手振りで一生懸命に黒髪の子に話しかけている。
真剣に話しているようで前から自転車が来ているのにも気がついていないようだ。

黒髪の子が先に気が付き避けて2人の間に通れる空間を開けた。自転車はその間を通ろおうとしたが、茶髪の子は気が付かずに黒髪の子へと歩を進めた。
黙って見てはいられなくなり駆け寄って茶髪の子が自転車と接触する前に腰を抱き引き寄せた。
自転車が通っていくと、腰に回していた手を離す。

「もう、園子!ありがとうございます!ほら、園子も」

「あ、ああ。うん。ありがとうございます!…あれ、その制服うちの?」

「いえ、間に合ってよかったです。ん?ああ、そうです。実は、今日が転入初日なんですよ」

茶髪の子と黒髪の子が驚いたように顔を見合わせた後、キラキラした目でこちらを見てきた。

「じゃあ、噂の転校生てあなたね!今日2年に転入生が来るて噂があったのよー」

「あ、さっき言ってた?」

「そうそう!」

「ということは、あなた達も2年生ですか?」

2人は嬉しそうに頷いて、自己紹介をしてくれた。
黒髪の子が毛利蘭。茶髪の子が鈴木園子。
覚えたと、ひとつ頷くと自分も自己紹介をする。

「私は苗字名前。よろしくお願いします」

いろいろ話しているとあっという間に帝丹高校に着いてしまった。
職員室まで2人に案内してもらい、そこでなんと私の転入先は彼女達のクラスだという事がわかった。
驚いて3人で顔を見合わせ、笑った。
もう、これは運命だと転入早々、放課後遊びに行く約束をした。

















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