クラスのドアを開けると初めて見る男子と目があった。
「もしかして、あなたが苗字名前さんですか?」
「はい。そうですけど…」
「ぼく、本堂瑛祐といいます!よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げた事で瑛祐は額を強かに机へとぶつけた。
名前は驚いたとばかりに目を瞬かせた後、大丈夫ですか?と問いかけた。
「ああ、彼なら大丈夫よー。いつもの事だから」
「そうなんですか?」
園子の言葉に首をかしげながら名前は蘭に尋ねた。蘭も苦笑いしながら頷くとこを見ると本当の事らしい。
聞くところによると極度のドジっ子体質な上に運も悪いらしい。
なるほど、と未だに額を抑え唸っている彼を見つめた。
「瑛祐君、最近まで病気療養してたの」
「だから、今日初めてお会いしたんですね」
「そうそう。だから、今日はこやつの復帰祝いと名前の歓迎会もかねて放課後カラオケに行こうと思うんだけど、どう?」
「嬉しいです。ぜひ!」
「よかった!この前は用事があるとかで結局遊びに行けなかったから。瑛祐君も今日は空いているていうし。放課後が楽しみだな」
蘭が嬉しそうに笑うと復活したらしい瑛祐がはい!と嬉しそうに返す。
それを見ておや?と思ったが名前は黙って微笑むに留めておいた。
放課後、カラオケに行く前に本屋に寄ることになった。
園子と蘭は試験前用に参考書を買うと言い、どれがいいかと品定めをしていた。
名前も転入後初めてのテストという事もあり2人に付き添いどれくらい進んでいるのかを聞いていた。
瑛祐はというとミステリー小説の新刊を探しに行ったらしい。
瑛祐にも意見を聞きに行くと、小学生の男の子と話しているのが見えた。
「あら、コナンくんじゃない」
「知っている子なんですか?」
「あー、名前がこやつと会うのは初めてだっけ、蘭とこに居候している眼鏡のがきんちょとその仲間達よ」
コナンの周りに他にも子供達がいてなるほどと頷く。コナンと子供達が興味津々といった感じで自己紹介をしてたので名前もしゃがみこみ目線を合わせると自己紹介をした。
「それにしても、こんなとこでこやつらと会うとは。ははーん、ガキンチョ共は学校帰りにマンガを立ち読みしにでもきたってか?」
「姉ちゃん達だってマンガ読みに来たんじゃねぇのか?」
いかにもガキ大将といった風の小嶋元太が不機嫌そうに聞き返す。
園子はふふんと笑うと遊びではなく勉強の為だと告げる。
気取って言った園子だったが、子供達に付け焼き刃で勉強するのかと図星を言われていた。
最近の小学生はすごいしっかりしているものだ、と見つめているとコナンと目が合った。
微笑みを浮かべて首を傾けるとなんでもないよと同じように笑い返された。
随分余所行きの笑みを浮かべるものだとざわりと好奇心が疼きだす。
「それより瑛祐兄ちゃん学校に戻ってきたんだね。ずっと休んでたって聞いてたから」
「え、ええ」
「そう。今日から復帰よ。ずっと病気療養してたんだよねー」
「そうそう。恋の病でねー」
「こ、恋なんかじゃなく普通の病気ですよ!もー!」
園子にからかわれている瑛祐の様子を観察しつつ。
それよりも気になるコナンと子供らしさが全くない灰原哀を気づかれないように観察した。
お目当ての本を購入した蘭たちが用事も終わったので、今日のメインであるカラオケ店に行こうとなった。
コナンも行くことになり、途中まで帰り道が一緒だという哀も連れて歩いていく。
後ろで子供達が気にしている数メートル後方につけてきている男。
おそらくターゲットは…
何かあった時に守れるようにさりげなく隣をキープしてカラオケ店へと向かった。
後ろの子供達も気がついている事にますます好奇心が疼く。
意識して会話に耳を傾けるとカラスという単語が耳に入ってきた。
Crowか…まさか、な。
頭の中で流れ始めた『七つの子』。
これはもはや職業病だなと苦笑した。
カラオケ店は比較的まだ空いていたのかすんなりと部屋へと通された。
蘭と園子が歌うのを手拍子をとりながらきいているとリモコンを瑛祐から渡された。
「名前さんは歌わないんですか?主役なのに」
「それを言うなら瑛祐さんだって」
「僕はいいんですよー。こうやって聞いてるだけで充分ですから」
そう言って頬を染めて蘭を見つめる瑛祐。
聞くのは野暮だと思っていたが、思い切って名前は瑛祐に近づき囁く声で聞いた。
「あの、違っていたら申し訳ないんですけど瑛祐さんてもしかして…蘭さんが」
「あー!僕おトイレ行きたくなっちゃいました!ちょっと行ってきますね!」
瑛祐が持っていたマラカスを渡されて思わず受け取る。
本人は逃げるように部屋を飛び出して行った。
手にしたマラカスを軽くシャンシャンと1度ふると頷いた。
「あれは黒だろうけど…これ以上は聞かない方が良い、かな?」
瑛祐君にとってもキミにとってもね?と言葉にはせずに不機嫌になっているコナンに微笑みかけた。
まさか自分に振られると思っていなかったらしいコナンは慌てて、次は僕の番だねー!と言ってマイクを持った。
コナン君がマイクを持った瞬間顔が強ばった蘭と園子に疑問を持ったが、すぐにわかった。
Wow!と思わず感嘆してしまうほどに音痴だったのだ。
1曲終わると全力で拍手をした。
コナンは満足気な顔であった。
そして、まさかの殺人事件が起きた。
被害者は先程のストーカー。
容疑者の中には瑛祐もいた。
もちろん、犯人は彼ではない。
真犯人はあの人だけれど気になることがある。
先程から現場を彷徨いているコナン君。
しかも、彼は遊び半分で彷徨いてはいない。
彼がしているのは紛れもないこの事件の犯人を特定する為の推理だ。
闇雲ではなく、きちんと根拠を持って調べている。
見た目とは不釣り合いな行動をしている彼が気になって仕方がない。
私は思わず己の身体を抱きしめるように腕を掴んだ。
ゾクゾクと湧き上がる好奇心を抑えるためだ。
今の私はもう『彼』とは違うのだから。
静観を決め込んでから数時間後、この事件は無事解決した。
園子の推理ショーによって。
…上手くやるものだな。
時計型麻酔銃にネクタイ型変声期。
違和感を感じさせない演技力。
どうやら、彼への好奇心は抑えられそうにもない。
一旦、瑛祐とコナンが別行動になったのを見届けると蘭たちとも別れ、裏路地に入る。
スマホを出しイヤホンをつけると声が聞こえてきた。
『ダメだよ』
『いや、君の意見じゃなく。新一さんに聞いて』
『だから、ダメだっつってんだよ』
『じゃ、じゃあまさか君は』
『ああ。そのまさかさ』
『フフ、アハハハ!これで謎が解けました』
そこから始まった会話は想像以上のものだった。
眠の小五郎の正体もコナンの正体も。
そして、CIAにFBIに瑛祐もコナンも関わっているということ。
それに、おそらく…
「これは偶然か…いや?必然、運命とも言うべきなのか」
名前は抑えきれない笑い声を零しながら家路についた。
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