「お疲れ様でしたー!!!」
グラス同士をちん、と合わせて。お互いを労るお疲れ会。
今日のライブの良かったところとか、冗談とか、言い合って。みんな疲れてるのもあるけど、いつもより外れたテンションで、盛り上がりを見せている。
けれど、俺はあまり酒が進まなかった。
そこにコトリと置かれる誰かのお酒。その後に声をかけられた。
「お?りぶくんどした?」
「あ、ラスノさん」
俺の酒が進んでないのに気づいたのか、Last note.さんが声をかけてくださって。
「さっきから何回も携帯確認して…どうした?彼女かー?なんて」
「い、いやいや!そんなんじゃあ、ないんです!」
ラスノさんのからかうような視線も虚しく、俺はそんなんじゃなくて、でも確かに女性からの連絡を待っているのは確かだった。
少しとはいえ、お酒を飲んでいたから、口が軽くなってしまったのかもしれない。
ラスノさんに、事の大筋を話し出した。
真剣に話を聞いてくれるラスノさんの雰囲気に流されて、ペラペラと口が動く。
俺は、なんて親切な友達を持ったんだ。
「…ということなんです」
「そうなのか…。」
ううむ、と腕を組んで、何かを考えている。
先程から、そうか、なんてぽつぽつ漏らして、
「つまりりぶくんはその子に一目惚れをしてしまいもう1度連絡を取りたいということかぁー!」
なんて、そんな声が響き渡った。
「ちょ、ま、そんなこと言ってません俺!!」
親切な友達を持ったなんて感動した俺のあのピュアな心を返せ。ラスノさんの声に反応したみんなはこっちを見て、興味津々げに野次馬は集う。
酔っているみんなにこの話題はスルーなんて出来ない。
今までみんな分かれたりして話していたのに、急に輪ができた。
「りぶさん好きな人出来たんですか!!おめでとうございます!」
「そっか〜りぶさんにも遂に…」
「ちょ、天月くんも歌詞太郎さんも、やめてくださいよ!」
それでも、そんな本人の「違う」を易々と受け入れるわけがない。事の発端となったラスノさんを見て、「どうしてくれるんですか」という視線を送れば、「ごめん」なんて視線で返事。
「わかったわかった!悪かったよりぶくん!拗ねないで?ね?」
「ラスノさんのせいです」
激おこぷんぷん丸だぞ!というように背を向けて、ラスノさんに敵意を向ける。
「お詫びに、その楽器店のサックス担当のスタッフさんに知り合いがいるから、彼女のことちらっと聞いてみるからさ!」
ありがたいけどその誤解を生むような言い方やめてほしい
◇◆◇◆◇
「そらるさあん、俺悪いやつなんですよお」
「なんだよりぶ」
そらるにもたれ掛かって、完全に酔っ払ったりぶ。前後にゆらゆら揺れたと思えば、もたれ掛かって、何度も何度も「俺悪いやつなんですよお」と。
まだあまり酔っ払っていないそらるはうっとおしそうにりぶのおでこを押す。
この酔っ払い。
「あんなに綺麗な人、転ばせちゃってぇ…、悲しそうな顔させてぇ」
「うるせえ…」
酔っ払ったりぶは面倒臭い。
普段は結構天然なやつで、突拍子もない行動とかしたり、…まあそこが面白いんだけど、…酔うとさらに酷くなる。
「俺もうダメだあ」
「こらこらりぶくん、わかったからあ!また連絡するよお!」
「ラスノさんうるさいです……」
酔っ払いは2人来ると2倍面倒臭い。
天月とまふまふに、可哀想…という目で見られながら、2人の男を自分の上から退かした。
◇◆◇◆◇
ヴー…ヴー………
頭がガンガンする。手探りで自分の携帯を探し出す。
打ち上げで飲んだくれた後の記憶が無い。今、俺はどこで寝てるんだ……
「もしもし」
『あ、りぶくん??おはよー!!大丈夫?』
朝からテンションの高い電話の奥の声に、うー、となって携帯を耳から遠ざけた。
「大丈夫ですよ……ラスノさん…」
本当は全然大丈夫じゃなくて、出来ればボリュームを下げてほしいと言うことも出来ず、自身の方で音量を下げる。
『そうそう!!聞いといたよ!本当はいけない事だけど、りぶ君の言ってたその…彼女、来週また楽器取りに来るって!』
でも、そういったラスノさんの言葉を聞いて、ボリュームを下げる手を止めた。もう1度耳に当てて、聞き返して、
ごそごそとスケジュール帳を取り出す。
「来週、あの人が…?」
『そう!チャンスはその日しかないね!』
「そういう、誤解を生むような言い方はだからやめて下さいって……」
「でも、ありがとうございます」と言って電話を切る。
もし彼女から電話が来なければ、その日行って、ちゃんと謝らないと。
スケジュール帳に書いて、忘れないようにした。