Passenger ListA

「お待たせしました!」
「うぅ…?」

ビニール袋から水、紙コップ、お泊まり用歯ブラシセット、温かいお茶、携帯食糧、経口補水液、胃薬、除菌シートetc──

「こんなに?」
「気持ち悪さの要因が分からなかったので。まず手を拭きますか」

不要なものはしまい、使う物だけを開封していく。 身体を起こす手助けをした後好きな物をどうぞと袋ごと差し出すが、戸惑っている彼は最初手に取ろうとしなかった。袋を吐瀉物の上にゆっくり掲げると受け取ってくれたけれど。
彼が何度も水で口を濯ぎ、歯を磨いている間。私は周りの掃除を始めた。

「アンタ、なにして」
「急に動かないっ!!」

意識の無い人間を運ぶのは、きっと骨が折れるだろう。ましてや大の男の人となると。焦って右手で動きを制していると、なまえの大声を聞きつけてか、店内からまた男性が外に出てきた。 その男性をまじまじ見てしまう。だって今傍にいる人と本当に似ていたのだ。

「何だテメェ」
「洋平。この人は良い人なんだ」

威嚇してきた洋平という男性は、彼の言葉に睨みつけてくるのをやめた。そして複数のビニール袋や現状を見比べた後こちらに向かって歩を進めてきた。

(めっちゃ怖い)

「それゴミか」
「え、はい」

洋平さんは私の持っていたゲボ袋をむしり取ると、そのままどこかに行ってしまった。

「おねえさん」
「はい。なんでしょう」
「色々ありがとう」
「いえいえ。吐き気は治まりましたか?」
「もうちょっと」
「じゃあまだ座ってましょう」
「うん」

洋平さんが戻って来てからも、三人でしばらくの間過ごした。

「もうアフターでいいんじゃねぇか?」
「賛成」
「惰性」
「弱酸性」

もはや客相手の会話ではない。

「動けそうか?」
「うん。もう大丈夫」
「じゃあアフター行きますか」

駅かタクシー乗り場まで送ります。ちゃんと胃薬飲んでお休みしてくださいね。
周りに聞こえないようこっそりと言うと、二人の動きが止まる。

「アンタ──」
「今日、忘れ物取りに来ただけなので」
(自分の失敗を人に教えるのは恥ずかしいな)

「忘れ物は?」
「トレンチコートです」
「色は」
「ベージュですけ、ど」

言い終わるかどうかのタイミングで、洋平さんはまたどこかに行ってしまった。

「用事あったのにごめん」
「全然気にしないでください。嫌なら最初からシカトしてさっさと帰ってます」
「そう?ねぇ、だったら次は俺たちに会いに来てくれない?」
「え……」

答えに躊躇すると、浩平さんは予想外だったのか。少し悲しそうに口をキュッとした。

「ダメ?」
「ワタシ、オカネ、ソンナニナイ」
「そうなの?」
「はい」
「じゃあ何でホストクラブに来たの?」
「ちょっとした事故で、シライシさんに連れられて…」
「ふうん」
「ならこっちにも紹介されてくれよ」
「おかえり〜」
「紹介?」

戻ってきた洋平さんは懐から白い紙を取り出した。

(拳銃出てくるかと思った)



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