兎男の独白
この子は、優しいが過ぎるんじゃないか。
俺はホットカクテルを飲むなまえちゃんを観察しながら思考を巡らせた。
他人ばっかり気にして、優しくしてさ。もっと怒ったり泣いたり、負の感情を表に出してもいいんじゃないかと思う。あの様子じゃ俺は本当に許されたのだろう。かわいい女の子の顔に傷をつけてほったらかしたのに。事故だからって。痛かっただろうに。手を引かれている間君も寒かったんでしょう?現にキロちゃんが気を利かせて温かい飲み物をオススメとして選んで渡した時、手を温めていたもんね。
俺は自分のことばっかり考えていて、すぐ側にいたのに大丈夫?と声も掛けなかった。悲しいとか思わなかったのかな。
ちゃんと態度に出さないと大変よ?押しに弱いと見なされちゃうかもだし。現に俺みたいなヤツに店まで連行されちゃってるもんな。あ〜心配!
騒がしいフロアから離れているおかげで自分のペースで飲み食いできる筈なのに、集中できないなんて久しぶりだ。
鼻から抜けていくウヰスキーの薫りと記憶を辿る。なんか、前にもこんなことなかったっけ?
靄がかかる頭を振ると二人に心配された。
大丈夫大丈夫、まだ酔っていないと返せばキロちゃんに酔っ払いは皆そう言うと笑われた。いつもはだらしないとか言われるけど、今日は機嫌が良いねぇ?マナーの良い彼女のおかげかな?
ホストは客ありきの商売。気分良く過ごして金を落としてもらうため、相手の反応を見て態度もサービスも臨機応変に対応しなくてはいけない。
どうしてああなったかは分からないが、キロちゃんの対応は、あの時点で必要なものだったんだろう。──今、彼女が望むものは何だろう?何をしたら喜ぶんだろう。
観察されてることも露知らず、なまえちゃんはキロちゃんと俺に好きなお酒や食べ物は?等簡単な質問をしてくる。答えるといちいち反応してくれて、初々しい。小さい手帳を取り出して…え?もしかしてメモまでしてくれてるの?かわいい。これは次もあるって期待していい?あんな態度取っちゃったのに。嬉しいなぁ。
アルコールが効いてきたのか、身体がぽかぽかしている。
金が〜金がぁ〜って余裕無く騒いでいたのが嘘みたいに、今日は楽しい夜になった。