明鏡に美しの雫を(2)
それから数分後─。
「ぎゃはははははは!さっきの奴の顔を見たか?!」
「見ましたよ!ひっでぇ顔!」
「ちょっと揶揄ったら泣いて逃げてやんの!傑作!」
品性を欠片も感じさせない態度で入店してきた客達が、一部の席で喧しく会話していた。
その口から発せられるのは、此処の普段の客層からは考えられないほど汚い言葉。
(顔が赤い。酔っているの?)
酔っ払いの相手は面倒だし、段々大きくなる声に頭が痛くなりそうだ。
彼女が不快感に眉をひそめていると、若い女性の声が割って入ってきた。
「またアンタ達!?いい加減にして!!」
「おやぁ?さっきのネェちゃんか?」
「こりゃあ偶然!」
「何をぬけぬけと…!」
「こっち来て俺等の相手してくれねぇか?」
「あっ!そっちの女は要らねえぜ!」
「立つモンも立たなくなっちまうからな!」
「ハハハハハッ!!違いねぇや!!!」
どうやら会話を聞くと、女性二人を揶揄って傷つけるのを目的に後を尾けてきた輩が彼等らしい。
(俯いた女性は揶揄われてたのか)
由梨菜は女性達の態度の理由が分かり、男達に苛立ちを覚えた。
「お待たせいたしました」
「……えっ?」
シャーロット・ブリュレは困惑した。
妹に庇われ、情けないと思いながら口論を聞いていると、妹と男達の合間に素知らぬ顔をした女性給仕が割って入ってくる。更に妹を席に座らせると目の前に頼んだ覚えが無いケーキセットを二つ置いてきた。
置かれたのはミントがちょこんと飾り付けられたレアチーズケーキ。その隣には透明なガラスポットだ。
中には小ぶりな花が浮いており、徐々にお茶の色が変わり始めていた。
「サプライズティーです。お連れの方とお楽しみください」
「え…でも……」
「サービスです。30秒前後で鮮やかな水色に、3分ほどで紫色に変化しますので、"目を離されぬよう"ご注意ください」
私に耳打ちをすると、彼女はにこりと笑ったあと背を向ける。
「当店では、女性や他のお客様に絡むことを禁じております」
「あ゛ぁ!?」
「私の店から出て行ってもらおうか」
一度男達の悲鳴が聞こえた後、店は静まり返った。
「由梨菜さん」
「はい」
「ちょっと買い物に行ってくる。店番を頼むよ」
「分かりました。お気をつけて」
私達が呆然としているうちに、絡んできた男達は店から消えていた。
「あ。お客様」
「はい?」
「今のお茶の色、お客様の御髪みたいで綺麗ですね」
「本当…!」
「──!!」
給仕の、由梨菜さんの言葉に妹が同意する。
「どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」
綺麗な紫色のお茶を飲みながらの、妹とのメリエンダ。
午後から初めて、私は笑顔になることができた。