夏の滴を共に(2)
「と、いうわけです」
「…」
夏休み期間前、最後の第三金曜日。
前々から仕事が入り、祖母もガープもお茶会が出来ないと言われていた由梨菜は、なんとなく暇を潰すため"新世界"に足を運んでいた。
「……そうか」
新作と書かれた看板に目を引かれ来店した彼女を見下ろしながら、カタクリは内心落胆する。
先月、明るい表情をした妹から出先で起こった出来事を聞いた。
ぺロス兄が店番の際に友人が呼んでいたという名前と妹達の報告から、妹達を悪漢から庇ってくれたのは目の前にいる彼女と判明した。
「カタクリお兄ちゃん!」
「どうしたブリュレ、プリン」
「あの、今日ブリュレ姉さんが悪漢に絡まれたんだけど…」
「なんだと!?怪我は無いか二人とも」
「だ、大丈夫よお兄ちゃん。それでね、逃げ込んだ喫茶店で庇ってくれた女の子がいて」
「由梨菜さんって人なの!お茶とケーキをサービスで出してくれて」
「私の髪のこと、キレイって笑ってくれて…ぜひ助けてくれたお礼がしたいのだけど」
だが、二人の表情は暗い。
「でも、またお店に行ったら"夏休み明けまで来ない"って言われてしまって」
「…おそらく、ぺロス兄の店によく菓子を買いに来る女学生だろう」
「本当!?」
「カタクリ兄さんっ!もし会えたらその人に家に来てくれないか誘ってくれない!?」
「…!」
「お兄ちゃん?」
「分かった。聞いてみよう」
「ありがとう!」
家族を助けてくれた礼がしたい。
自分もそう思いそれとなく予定を聞いてみたが、既に彼女は友人との予定がぎっしりと詰まっていた。
妹達と約束した手前質問はしなければならない。しかし、彼女の口から否定の言葉が吐き出されるのを想像すると、自然とカタクリは眉間に皴を寄せていた。
「どうかしました?」
「いや…味はどうでしょうか?」
「舌触りが良くて、ひんやりして、美味しいです!」
「ありがとうございます」
新商品は葛粉で作った半透明な皮で餡を包んだもの。
その和菓子は水晶のような透明感があり、その美しさと清涼感がこれからの夏の季節に合っていた。
(これからまた一ヶ月ほど会えないのか)
黒文字を使い笑顔で食す彼女を、今のうちに目に焼き付けようかと考えていると。
「あ、店員さん。お土産何がいいです?」
「!?」
突拍子もない発言をされ、思わずカタクリは彼女を二度見してしまった。