泥船に花を植える

とうとう来た夏休み。
予定を聞かれ、知り合いの家に招待されたので出掛けると由梨菜が言うと。おつるはお茶請けに伸ばしていた手を止めた。

「どんな方?」
「以前お茶請けを買った店の店員さんです」
「おっ?もしや薔薇の飴をくれた?」
「はい。あと喫茶店の手伝いをレイさんの所でしていた際、絡まれていた女性二人を庇ったらご兄妹だったらしく。お礼がしたいと言われ、招待を受けました」
「そうだったの」

そう言うや否や、由梨菜は祖母に頭を叩かれた。

「まったく!また危ない目に巻き込まれて!」
「ごめんなさい…」
「まぁまぁおつるちゃん。どうせレイリーの奴がすぐ追っ払ったのじゃろう?」
「あ、はい」
「なら大丈夫じゃ!」

しれっとお茶会に混ざり笑うガープに米神を揉むおつる。
深いため息の後、彼女は引き出しの中から紙切れを取り出した。

「もし何かあったら此処に電話おし。いや、帰りには必ず電話しなさい」
「大袈裟じゃないか?」
「連絡が無い場合、私の孫に手ェ出そうなんて二度と考えられないように仕置きしてやる」
「必ず電話するんじゃぞ」
「します」
「よろしい」

笑顔から発せられたとは思えない声色に、ガープと由梨菜は手を取り合い頷いてみせた。


「どれがいいかしら」

帰宅後。由梨菜は招かれる時に失礼の無いよう、訪問着の準備をしていた。
真夏の日差しは容赦なく彼女を突き刺すが、肌を多く露出するのもはしたない。何とか数着に絞った候補を眺めながら、祖母の言葉を思い出す。

(手出すなんて大袈裟なんだから)

「カタクリさんからしたら、私なんてただの菓子を買う小娘だよ」

(招かれる以外の理由なんてありはしない)

「それはそれで少し悲しいけど…」

(ん?)

自分の吐き出した言葉に、ちくりと胸が痛む。
その痛みは以前も覚えがあるものだった。

「嘘でしょ…」

これ以上痛みが広がらないよう、由梨菜は静かに胸を押さえた。


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