泥船に花を植える(2)
白帯に描かれた波と紫陽花が、見るものに清涼感を与えている。
「暑いなぁ…」
いつも通る裏路地は人がおらず。打ち水がされた道に蝉の声だけが響く。
8月5日。日傘の下でも滲む汗を拭いつつ、彼女は待ち合わせの場所に向かっていた。
「……はい。カタクリです」
「カタクリさん!お久しぶりです。華菱由梨菜です」
「あぁ」
「あの、家族と友人達に事情を話したら、先にカタクリさんのお家にお邪魔してきなさいと」
「そうか。都合がついてよかった」
「はい。えっと、いつ頃ならお邪魔しても大丈夫ですか?」
「フム……ならこの日の13時はどうだろうか?」
「─えぇ!大丈夫です!」
「ではその日に。一度店に来てもらうことになるが、いいか?」
「はい。よろしくお願いします」
「ペロスペローさん、カタクリさん、妹さん二人のお土産も忘れずに持った。よし!」
当人たちの好みが分からないため、ささやかなものになってしまったが。
喜んでくれればいいなと考えながら選んだ土産は、家から出る前に何度も確認した。
とても緊張するが、会いたいと言ってくれたカタクリの妹二人のことを考えると、由梨菜の足は自然と軽やかになるのだった。
「失礼します…」
「やぁいらっしゃい」
店のドアベルがカランコロンと鳴った途端に此方を見たペロスペロー。
冷たい麦茶を差し出され、お礼を言いながら飲み干すと、苦笑いながら彼は言う。
「暑い中、こちらの都合で申し訳ないね」
「いえいえ。私、妹さん達に会えるのを楽しみにしていたので」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。おかわりは?」
「ください」
「はっはっは!いいとも。座って待っていなさい」
もはや定位置となった腰掛けに座る。
いつからか、煮詰めた砂糖のような色をした小さなテーブルが傍らに置かれ、彼女にとって過ごしやすい環境となっていた。
(このスペースを増やせたら、もっとお客さんが足を止めるようになるかな)
テーブルに項垂れながら考えていると。
「大丈夫かい?」
「え?」
「何だか顔色が悪い。この暑さだ、熱中症かもしれない」
「そうでしょうか?」
ひたりと頬に当てられたペロスペローの手が冷たくて目を瞑る。
ドアベルがけたたましい音を立て鳴ったのは、そのすぐ後だった。