泥船に花を植える(5)

「手洗い場まで広かった…」
「ご家族は背丈の高い方が多いので、屋敷の中は皆様が快適に過ごせるように設計されております」
「なるほど」

幼い頃案内された海軍本部の中を思い出す。
あの頃は行き交う海兵が皆巨人に見えたものだ。
どこもかしこも立派な造りに若干気後れしつつ、彼女が横向きに寝そべっても余裕のある幅の廊下を歩く。
屋敷に到着してから陽が少し傾いて、窓枠の陰を格子のように伸ばしている。
学校が休みなら、本来自ら購入してきた菓子を賞味している時刻だろう。

(今日のような気温なら、氷菓子がいいかしら)

窓の外の様子を見つつ、そんなことを考えていると、

「華菱様。お部屋に着きましたよ?」
「あ、すみません。ありがとうございます」

もう部屋に着いたらしい。案内してくれたお手伝いの方に礼を言い、部屋に入る。

「お帰りなさい」
「お待たせして申し訳ありません」
「いいのよ!迷子にならなかった?」
「案内していただいたので大丈夫です。しいて言うなら」
「言うなら?」
「お手洗いが広々としていて寂しかったです」
「あははははっ!何それ!」

笑みを見せてくれたブリュレとプリンの二人。
由梨菜は再び腰掛けに座ると、遅くなったがと前置きをしてから、

「本日はお招きいただきましてありがとうございます。ささやかですがこちらをお受け取りください」

持ち込んでいた紙袋について説明した。
女性には花卉を用いて作られた小瓶の香水と石鹸の詰め合わせ。
伽羅色の小箱に収まった贈り物に、二人は歓声を上げる。

「まぁ!かわいい!」
「包装も凝っているわね」
「店長の奥様が使用していると教えてくださって。肌に優しく、香りも良いそうです」
「ありがとう由梨菜さん」
「大切に使うわね」
「…あら?こっちの袋は?」
「それはペロスペローさんとカタクリさんへの贈り物で」

その言葉に二人は顔を見合わせる。
自分達の兄は婦女子からの人気が高く、屋敷宛てに贈り物を届けられることもしばしば。
以前贈られた菓子の中に、口に出すのも憚れる異物が混入していた時は屋敷中に嫌悪と憤怒の声が響いた。
二人が警戒していると、

「殿方に何を贈れば分からなかったので、お店でも使えるように手拭にしました」

照れながらも、縁起物の絵柄を施したものを選んだのだという由梨菜。

「お二人と会った店でも仕入れて利用しているんです」
「そうなの?」
「はい。実用的な物の方が気兼ねなく使っていただけるかと思いまして。これからもあのお店で、美味しいお菓子を食べたいので。気持ちばかりですが…」
「ありがとう!きっと兄様も喜ぶわ!」

妹達にはその努力を見せようとしないが、陰で日々研鑽を積む兄達。
二人の為に、店の為を思って考えてくれた贈り物にブリュレの心は温かくなる。
由梨菜からの贈り物を大切に保管するようにとメイドに伝え、

「少し遅いけどメリエンダをするわ」

と、彼女は更に告げた。


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