触らずの甘露
通称"新世界"は、約四半世紀前に開拓されたが治安が悪く、一般人の安全な往来を可能にするまでかなり時間を要したらしい。
交易摩擦。外国との交流による新しい文化、風習が合わず閉鎖的に過ごす国民。国に反感を抱く暴徒や交易船を襲う海賊。抑止力としての海軍における苛烈な攻撃など理由は様々。
また近年、来賓や国を挙げた行事などで利用されることが増えてきたため、情勢に動きがあるとかないとか。
話題に事欠かないのが新世界だ。
(いろんなのがあるもんだ)
由梨菜は透き通るビードロのようなケースの前で思った。
ふと足を運んだ店は、彼女が習っている外国語とは違う場所の文字らしく店名が分からなかった。
最近店を開いたのか客もほとんどいない。しかし商品の質を見て、彼女はそれを勿体無いとも思っていた。
品定めに時間は掛けられないが、親しい人との大切な時間のために悩みに悩む。
(どの商品も綺麗…あれ?これは、どんな味がするんだろう?)
「すみません」
由梨菜は黙々と店内の清掃をしていた"えぷろん"姿の男性に声を掛けた。
商品のお勧めを教えてもらおうと考えてのことだった。
口元を隠している男性は、何故か驚いた表情で此方を見る。
「あの…?」
「何でしょう」
こほんと咳払いをし、男性はこちらに身体ごと振り向く。
背丈は今までに見た誰よりも高く驚いたが、低く静かな声で用を聞く態度に不思議と威圧感は感じなかった。
「どれも綺麗な見た目で迷ってしまって。お勧めはありますか?」
「はい。…いくつか味見をされますか?」
「いいんですか!」
「えぇ。こちらで少々お待ちください」
店の隅にある外の国伝来であろう腰掛けを引かれ、由梨菜は恐縮しながら座る。
店員はショーケースの向こうの作業場へと姿を消した。
(あれ?一人でお店を切り盛りしているのかな?)
なら急かしては大変だろう。
彼女は手荷物から文庫本を取り出し、読みながら待つことにした。