噛まずの飴

静かに作業場に入ってきた男に、私は声を掛けた。

「どうした弟よ」
「…客が来た」
「ほう」

無駄口を叩かないのが弟の美点の一つだとは思う。
しかし自分は心が読めるわけでは無い。きちんと状況を説明してもらわなければ困る。

「嬉しそうだな」
「…」
「あの席に座っている、つまりお前に話しかけたということか」
「!」
「彼女は何と言っていた?」
「菓子がどれも綺麗だ。何を選べばいいか悩んでいると」
「なら味見用にこれと、これを持っていくといい」
「なっ!?ペロス兄…!」

長身の店員、弟であるシャーロット・カタクリに小さくカットした焼き菓子と、薔薇の飴細工を持たせる。

「気に入ったんだろう?」
「───ッ!?」

(図星か)

「なら」
「こ、こんなもの渡せるわけが」
「─何だと?」
「!!」
「何を指して"こんなものだと"?」
「…失言だった。許してほしい」

羞恥に心無い言葉を発したと落ち込むカタクリ。
下の兄妹達に慕われる"完全無欠の兄"とは程遠い姿だ。

「お前もいい年だ。周りを黙らせたいなら、女性にアプローチの一つや二つしておけ」
「…」
「まぁ、彼女をどこの馬の骨とも知れん奴に取られてもいいなら話は別だが」

返事は無かった。
しかし、今度は素直に菓子を持っていった後ろ姿を見送り、ハァと溜息が漏れる。

「まったく…」

世話の焼ける弟だ。
こそりと作業場のスペースから様子を窺う。年若い女学生は目を輝かせて味見用の菓子を食していた。
彼女は両方の菓子を買うと、弟に手を振り急いで店から出ていく。何か用事があるのだろう。
弟は小さな紙袋を持ち、後を追うように店から出ていった。

私はバレないよう作業場に戻る。
久々にピエスモンテでも作ろうか。

「飴は熱いうちに加工しなければな。ペロリンペロリン♪」

甘い甘い匂いが、肺を満たしていた。

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