無言の情熱
「これ由梨菜!お客様の前だよ!」
「ゲッ!?」
「まぁまぁおつるちゃん。相手はワシじゃし」
「すみません。お仕事中でしたか?」
「いいや。ひと段落したとこさ」
「由梨菜ちゃん。見張りの兵達は何をしていた?」
「同僚の方とお話ししてました。私急いでいたので挨拶は…」
「いやいや気づかんほうが悪い。またシゴいてやらんきゃな!それにしても窓から入って来るとは!」
ぶわっはっはっはっと豪快に笑うガープにほっと胸を撫で下ろす。
(彼が来客でよかった)
「で、今日の茶請けは何じゃ?」
「ガープ」
「え〜!いいじゃろ?ワシも一緒にお茶したい!」
「私の孫との時間を邪魔するんじゃないよ」
「だってさ、ウチの孫共なんて口を開けばクソジジイに肉・肉・肉!ワシだってこんな可愛い孫とお茶したい!」
「はぁ…」
「せんべいだってあるぞ」
「アンタの食いかけじゃないか!」
漫才の様に会話を続ける二人に由梨菜はくすりと笑う。
彼女は持ってきた土産を手に掲げガープに話しかけた。
「初めて足を運んだお店で買ったので、ガープさんのお口に合うか分かりませんが。よかったらご一緒にお茶しませんか?」
「おぉ!ありがとうな由梨菜ちゃん!」
「まったく」
おつるは溜息をつきながらも、控えていた部下に人数分の茶を頼んだ。
「どうだい今月は?」
「春の眠りは心地よいとはよく言ったもので、裁縫の授業中眠たくて眠たくて。自分の袴とハンケチを縫い合わせてしまいました」
「はっはっはっ!」
「先生からお叱りを受け、授業後に図書の整頓を指示されたのですが…」
「途中で読みふけってしまったんだろう?」
「さすが御祖母ちゃん。よくお分かりで」
「アンタは本が好きだからねぇ」
ころころ変わる孫の表情におつるは微笑む。
(元気そうで良かった)
ゆるりと目尻に笑い皴を浮かべながら話を聞いてくれる祖母に、由梨菜の会話は弾む。
お茶を持ってきた部下も混ざり、世間話が更に盛り上がったところで電伝虫が鳴った。
受話器を取った祖母の顔が固くなる。どうやら仕事が入ってしまったらしい。
「すまないねぇ」
「いえ…こちらの我儘でお時間を頂いているので」
「ガープ。ウチの孫を頼んだよ」
「おう!任せとけぃ!」
部下を引き連れ足早に出ていった祖母を名残惜しむ。
同時に、長く話して引き留めてしまったか。迷惑をかけていないか不安に駆られた。
「大丈夫じゃよ。由梨菜ちゃん」
「ガープさん…」
「今日は元々おつるちゃんは休みなんじゃ。仕事を持ってきた奴が悪い!」
気にするでない、と煎餅を手渡しながら励まされる。
祖母同様、彼には幼い頃から世話になっている。じんわりと沁みてきた言葉に頷き、由梨菜は煎餅に齧り付いた。
「硬い…」
「ぶわっはっはっはっ!たまには硬いもんも食べんか!」
「ふぁい」
「ん?由梨菜ちゃん。これはおつるちゃんに見せんでよかったのか?」
「えっ?」
茶菓子を漁るガープの言葉に彼女は首を傾げる。
彼の持っている小さい袋から、見覚えのない包みが取り出されていた。
落ち着いた小豆色の包装紙に艶やかな灰白色のリボンが結わえてあり、彼女の掌に収まるサイズだ。
「何でしょう?」
「買ったモンじゃないならおまけかのう?」
包装紙を破らないよう慎重に開く。
「これは見事─!」
「きれい…!」
そこには、小さいながらも咲き誇る赤い薔薇があった。
花弁や葉一つ一つが朝露に濡れたかのように光り、まるで摘みたてのよう。触った感触と甘い匂いで、彼女はそれが飴細工であると気づくことができた。
「すごい、素敵」
「本当じゃなぁ!」
「はい!」
しげしげと眺める由梨菜。
(これは…おつるちゃんに報告じゃ!)
ガープはにやける口元を抑え、贈り物の主を想像する。
おつるの孫が異性にアプローチされたという大ニュースは、海軍の一部の面々に衝撃を与えたのだった。