溶け残った綿菓子
「いらっしゃいませ」
「うわぁ!?化け物だぁああ!!」
「いらっしゃいませ」
「男が菓子を作るとは、なんて女々しい!」
「…いらっしゃいませ」
「あの人異人って噂よ…危ないからもう来ないでおきましょう」
「…いらっしゃいませ」
「なにアレ!まるでフクロウナギみたい!」
「……いらっしゃいませ」
「こんにちわおにいさん!おいしいお菓子ありますか?」
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早朝。まだ鳥の囀りすら聞こえない時間に目が覚める。
何度も見た夢だ。
押しては返す波の様に、何度も何度も、店を移転させてまでも見る夢。
見たことのないものへの畏怖。誹謗中傷。
凶器を持ち、店を壊そうと暴れた男を能力を使って鎮圧したことで、客足は更に遠のいた。
商品は手に取られず、廃棄する日々が続く。
客とも呼べぬ来訪者の相手に疲れていたその日。最後の最後に彼女は来た。
「こんにちわおにいさん!おいしいお菓子ありますか?!」
自分の張りの無い挨拶など吹っ飛ばす勢いで、菓子を要望された。
己の顔を見て泣きもしない。
幼かった兄妹達にするように口元に菓子を運ぶと、勢いよく指を口に含んでしまうくらい元気があった。
店に来てから最初から最後まで笑顔でいた客は、彼女が初めてだった。
今でも鮮明に思い出せる。
陳列された菓子をしげしげと眺める小さい背中。己の手から菓子を食して、花が色づき綻ぶがごとく笑む顔を。
(まさかまた会えるとは思っていなかったが…)
人間欲深い生き物だというが、自分も例に漏れずそうらしい。
向こうは自分のことを覚えていなかった。だがそれでも、ぺロス兄の店の手伝いをする度に、また会えやしないかと気になって仕様がない。
今度は自分の作った菓子だけを買って欲しい。
醜い嫉妬を内に秘め、起き上がる。
(今日はクラッカーに手伝いを頼まれていたな)
一日の日程を確認しつつ、俺は外に行く準備を始めた。