《ということなのでよろしくね》
《は?》
所変わってHLのとあるアパートでは、一人の女性がスマートフォンを握りしめたまま固まっていた。数分後我に返った彼女は同じ台詞を言うのだが、既に通話は切れている状態だった。
「いつからこの街は変態が闊歩するようになったの?」
独り言つみょうじなまえは自室をうろつく。恋人が事件に巻き込まれたと聞いた時は不安で心臓が痛むほどだった。しかし、事態は想像の斜め上を行った。
淫紋?なにそれ?は?はぁ?????!(事情説明中)
「公的機関の人から"ピーー"してやってくださいって電話来るって何?」
ネギがカモ背負って来るよりおかしいだろ。なまえは床に蹲った。何故職務に忠実でかっこいい恋人がこんな目に合わなくてはいけないのか。ちょっと会えなくて寂しいと思っていたけれども。拙いながらも温かく、ほぼ清らかなお付き合いをしている自分達にハードルが高すぎるのではないか?おぉ神よ。私はどんな感情で今後恋人に向き合えばいいのでしょうか?今彼女は別の意味で心臓が痛かった。
懊悩し続けているうちに玄関先から来客を知らせるチャイムが鳴る。
何をしたらいいか分からないが、彼の状態が良くなるまで一緒にいるしかない。
ドンドンと扉を叩かれ、焦って鍵を開ける。
「おっ、おかえりなさい!」
散々でしたねとダニエルさんを招き入れると、扉が閉まりきる前に名を呼ばれ腕を引かれた。
つむじにキスを落とされ頬をすりすりと寄せられて。文化の違う私のせいでスキンシップは常に彼からなのだが、今まで抱擁された中で一番時間が長い。表情を見るために見上げようとすると、拘束が強くなる。
(なんか、甘えてるような……?)
だいぶ疲れたのだなとなまえが労わるために背中を擦ると、その背筋が震えた。
「ン、んっ!」
「え?」
顔を上げると同時に身体を離される。ダニエルさんの顔が、真っ赤に上気している。隠された手の間から分かるくらいはっきりと。
───玄関口で、発情している。
天啓のように、脳みそに事実が刻まれた衝撃たるや。なまえは両手を上げて叫び出したかった。
(いつも余裕あるダニエルさんが!!こんなにも!かわいいなんてっ!!)