肝胆を晒せ(3)
「うわっ!蜘蛛の巣!」肩に付いた糸から逃れる。
振り向くと自分の顔くらい大きな蜘蛛が、千切れた巣の上で足を動かしている。
情けない悲鳴を上げながら波澄はその場を離れた。
(歩くほど人里から離れている気がする…)
目的地が分からない不安と戦いながら一時間ほど勘で歩き回った彼女は、やっとのことで農村と思われる場所を丘の上から見つけた。
「ひどい…」
村の中には大勢の人の血が撒き散らされていた。
家屋の壁に飛び散った赤が、人の営みが消されたことを物語っている。
生存者がいないかと歩き回るが、誰もが皆死んで冷たくなっていた。
(誰がこんなことを…ん?)
村人と思われる遺体を見ていると、波澄は何だか違和感を感じた。
血生臭さを耐えつつ他の亡骸を確かめると、その違和感の正体に気づいた。
「傷口が違う」
遺体は鋭利な刃物や銃弾で殺傷されたものと、骨を折られ首を引き千切られた二種類があったのだ。
「しかも武器を持っている人だけ、首を傷つけられている」
危害を加えられる可能性を考え、波澄は持っていた大剣を地面に突き刺した。
此処はもう死んでしまった村だ。人の呼吸すら感じられない。
悲しい沈黙に胸を痛めながら、彼女はリュックから荷物を取り出した。
──何度も何度も。爪を、牙を振るう。
幾度奴等の息の根を止めたか。
同じ形であるのに、群れを成しているのに、何故こうも生き方が違うのか。
それらを守るための存在であった我々のせいで、この集落は襲われた。
一矢報いた者もいたようだが、抵抗した者は既に狩られた後だった。
(口惜しい、口惜しい──!!)
臓腑が悔恨で煮えたぎる。
新たに屠るべき敵を探していると、不可解な臭いを感じた。
村の方からだ。
(まだ奪い足りぬのか!!!!)
衰えぬ健脚で大地を駆ける。森を抜け、崖からその地に降り立つと、そこには人間がいた。