王子様の食卓
「大丈夫?」「え?」
「手が止まってる」
「あ、すみません!」
此方の様子を窺いながら声を掛けられ、ハッとして手を動かす。
今日、街での探検を終え暇を持て余していた私は、緊張しつつもサンジに手伝いを申し出たのだ。
(自分から声を掛けたのに!しっかりしろ!)
キッチンは陶器の擦れる音と洗剤の匂いに満たされている。
大好きなキャラの隣りに立ってるなんて、何だか夢みたいだ。しかもおいしい料理まで食べさせてもらって!
心の中でありがたさを噛み締めながらせっせと手をまた動かしていると。
「ハスミさん…?」
「は、はい!?」
「よかったら休憩しないかい?」
食器を拭く時すら私みたいなポンコツ女に気遣いを忘れないなんて!
アッッッ!その眉毛へにゃり可愛い!心臓に悪い!!天使は此処にいたのね!!!
心の中ではシャウトしながら、私は快諾した。
「どう?」
「美味しいです。とても」
「そりゃあよかった」
作ってくれたおしゃれな名前のドリンクを、サンジの隣に座りながら飲む。
ここがラフテルか。知ってた。
(最初出会った時はどうなるかと思ったけど)
ガリガリに痩せこけていた彼はコックになり、青年になり。
メリー号で毎日楽しそうに料理の腕を振るっている。
(うんうん。幸せそうで何より)
いつもならもっと感想を伝えたり、夕飯のリクエストをするのだが。緊張のせいか上手く言葉が出てこない。
「疲れちゃったかな?」
「へ?」
間抜けな返事に天使…間違った。サンジがくすりと微笑む。
罪悪感が胸を擽る。私は、彼に隠し事をしている。
(どうやって誤魔化そう…)
今日はゴーイングメリー号のキッチンの王子様。サンジの誕生日だ。
そのため、皆今日は船番を交代しつつ、プレゼントや飾りつけを準備している。
少し言葉を交わしたくらいで様子の変化を気づかれるくらいだ。
すぐ表情に出る船長とお医者さんは大丈夫だろうか?
「ハスミさんが今日声掛けてくれたのが嬉しくて…つい長く引き留めちまった」
その前に私の心臓は大丈夫だろうか。
「あ、ありがとうございます?」
「ふふっ、なんだそれ」
「あはは…また、手伝いに来てもいいですか?」
「っ、いいのかい?」
「サンジさんの邪魔にならなければ」
「あぁ。邪魔だなんて言わないよ」
「よかった」
その一言にほっとしながら笑っていると、
「あー!!ハスミだけズリィ!」
「正当な報酬だ!馬鹿船長!」
キッチンが一気に騒がしくなる。
ルフィ・ウソップ・チョッパーの三人が飲みたいと駄々をこねるので、仕方なく同じものを作ってあげるサンジ。
ウメェウメェと喜ぶ様子に口元を緩ませる彼は、まるで眩しいものを見る様に仲間を見るから。
彼が彩る食卓がずっと幸せなものであるようにと、秘かに私は願うのだった。