肝胆を晒せ
見慣れた天井。背中に感じる柔らかいベッドの感触。「い、生きてる…」
それを見つめてしばらくして、波澄はようやく大きく息を吐いた。
危害を加えられたのは初めてだった。
貫かれた胸には弾けた赤い花も傷跡も無い。
だが波澄の身体は、しばらく震えたままだった。
「波澄」
「…」
「ちょっと、波澄!」
「え?」
「どうしたのよ?口開けたままボーっとして」
「はぅ…ごめん」
垂らしかけの涎を吸い込みながら波澄は正面を見る。
美味しいと評判の店のランチを口に運ぶ途中で意識がどこかに行っていたらしい。
友人は呆れた様子で波澄を見た。
「どうせまた夜更かししてゲームしてたんでしょ?」
「あはは…仰る通りで」
「まったく。集中するとすぐそうなるのは相変わらずね。たまには早く寝なさいよ。夜更かしはお肌の天敵なんだから!」
アンタちゃんと教えた美容方法やってるんでしょうね?と言う彼女の言葉に苦笑いしつつ、波澄は注文していたラザニアを口に入れる。
言われてみれば、最近夢の中のことばかり考えていた。
たまには自分のために時間を使うのもいいかもしれない。
(今日はゆっくり寝てみようかなぁ…)
特筆するような出来事は無く仕事が終わり、帰路に就く。
変わり映えのしない日常にどこかほっとしながら、コンビニで寄り道をする。
新製品の菓子や雑誌を見ていると、漫画の最新刊が置いてあるのに気づいた。
(次の冒険はどこになるんだろう?どんな物語が待っているんだろう?)
「結局買っちゃった…」
習慣と化していることを早々変えるのは難しい。
また独り身とは寂しいもので、退屈や疲労を紛らわす物はそう多くないのだ。
コンビニを出るときには、総菜とは別の袋に仕舞われたそれが彼女の手の中で音を立てて主張していた。
「気になっちゃうんだもん…見るだけ。見るだけ」
彼等の冒険の一部を、決して届かぬ淵から見るたびに。こぶしを握り興奮し、共に涙を流し泣く。
そこから少しの心の糧を得てきた波澄にとって。見たことのあるキャラクター達と会えたことは、まさしく夢のような出来事。
「…良い夢のままで終わればいいのに」
せめて夢の中では、彼等が笑っていてもいいじゃないか。
そんなことを考えながら、波澄は帰宅後すぐその少年誌を開いた。