02
「ここじゃ目立つから取調室行くぞ」
何も悪いことをしていないのに連行され、取調室へ入れられた仄華は、珍しそうに中を見回す。
ゾロゾロと全員取調室に入れる訳にはいかないので、ジャンケンで勝ち残った少人数の警官だけが入室を許可された。
(恨みっこ無しのジャンケンは熱戦が繰り広げられ、最後の一人が決まった時には拍手まで起きた)
デスクの上にはいくつかの書類と、彼女用に用意された文房具が置かれていた。
仄華は四方を警官に囲まれて居心地悪そうにしていたが、正面にダニエルが座ったことで肩の力を抜く。
「じゃあ、なんだ。自己紹介といくか」
「合コンの幹事みたいですね」
「アホか…俺はダニエル、ダニエル・ロウ。職業は警官、階級は警部補だ」
何度も彼の顔を見つつ、書かれた文字を手でなぞり、一所懸命和英辞書を捲る仄華は目的の単語を見つけると拍手して笑う。すごいと思っていることを表現しているらしい。
なんだか微笑ましくて、彼の口の端は上を向いた。
「貴女の名前は?」
「
私の、名前は…」
上段はアルファベット、下段に漢字とひらがな。
整った字で丁寧に書かれた文字を。
「「…」」
彼等は認識出来なかった。
黒塗りで潰されて、まるで見せたくないかのように隠されていた。
彼女は反応が無い彼等をきょとんと見ている。
試しに好きな食べ物を聞いてみると、紙に書かれた文字はライスボールとミソスープ。
(彼女の戸籍に関わる個人情報が認識できない…)
ダニエルは部下にアイコンタクトを行うと、彼等も頷く。
見えているものは同じようだ。
彼女のちらりと首筋の痣を見る。
あの痣の呪術が原因だろうが、今すぐの対処は難しい。
「アジア圏の通訳出来るやつ、説明しろ」
「はい!了解です」
目星はついていたのだろう。
日本語で話しかけられた仄華は、すぐさま通訳の方へ体を向けた。
「あなたは日本人?」
縦に頷く。
自分達でも分かる反応が返ってきたことに安堵しつつ、話を続けた。
HLのこと、街は人間と異界人が歩き、毎日事件が起きて危険なこと。そして事件の一つに仄華が巻き込まれたことを話す。魔術や神性生物のあたりで混乱しだした彼女は、自分が異次元空間から落ちてきたところで頭を抱えてしまった。
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