スイート・ブランケット



ごちそうさまでした
「ひ〜…ひ〜っ…あーおもしろかった」
「お前、よっぽど減給されたいらしいな」
「すんません!すんません!」

あの後ドーナツは、仄華が他の警官達にも″あーん"してあげたため全てきれいに無くなった。
警官に差し出された水を飲み、彼女は空腹を満たし終える。

「これからどうします?」
「流石にもう仕事に戻る。まだ始末書出してねぇからな」
「あ、私も」
「彼女はどうします。つーかあの子、今後何て呼べばいいんです?」
「俺らはMVPでも通じるけど、署内の他の奴等が気づくかもしれません」

今後の対応について作戦会議が始まる。

「…パスポート作るには警察調書や戸籍謄本が必要です」
「戸籍を作るには住居が必要です」
「あの着物売ってお金にする?」
「あれは次元聴閲者を処分した証拠になるからって捨てちまった」
「警部補−−−−ッ!?」
「着物はピンキリだけど何10万とか何100万とかするんですよ!?」
「いや常識的に、無断で女の子の服剥いで捨てるってヤバイ!!絵面的にも!」

彼女を連れてきた警部補の判断に非難を口を出す輩はいなかったが、着物を捨てたことについて大分怒られた。

「財布はどうしました?」
「は?」
「帯の間に挟めて持ち歩く用にあるんです!」
「あぁ、あれか。今持ってるぞ」
「よっしゃセーフ!換金して来なきゃ!」

自分の財布を片手に部屋から飛び出していった警官に仄華は驚き、警部補のコートの裾を引いた。

「そうか、説明不足だったな」
「通訳します!」

警部補は彼女に、何らかの呪術で彼女の名前や生年月日などが隠されて分からないこと。
別の世界で暮らすにしても戸籍や住居が必要で、今は書類の手続き中。
財布の中身は、今後生活するために円からゼーロに換金しに行ったことを伝えた。

「着物は…事件でダメになっちまった。だが、これは無事だった」
「!」

コートのポケットから出てきたのは、花を模した髪飾り。
紅白の花や金の水引、飾り紐で作られたそれはHLではあまり見ない物だった。
仄華は大切そうに受け取り、着ていたパーカーのポケットにしまう。

「その花、何て言うんだ?」

メモに書かれた単語はcamellia(カメリア)。

「着物の柄も同じ花だったような…」
「彼女の名前、ツバキはどうでしょう?」
「…良いと思うが、彼女に聞いてみてくれ」

最終判断は本人に委ねる。
今後自分の名前になる彼女が気に入らなければ意味がない。

『貴女の名前を私たちで考えたんだけど、ツバキってどうかしら?』
ツバキ…

仄華はこくりと縦に頷いた。
口々に警官からツバキと呼ばれ、仄華はそのたび振り向き、握手した。

『「ようこそツバキ、HLへ」』

こうして仄華は、事情を知っている者たちからツバキと呼ばれるようになったのだった。
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