涙の色を教えて




昼間の喧騒が嘘のような静寂。
本来定められた退勤時間になり、帰り際声を掛けてくれた"新しい友達"の顔と名前を覚えるため、メモに似顔絵と名前を書いていた仄華。
しかし、30分ほど経過すればやることが無くなり、手持ち無沙汰に。

(暇だ…ねむたい…)

自然と瞼が重くなってくる。
目を擦ったり、立ち上がり身体を動かすことで眠気を覚まそうと努力したが。結局仄華は取調室の机に突っ伏して眠ってしまったのだった。








早急に手続きが必要な書類の山が終わり、固まった背筋を伸ばす。

(あれから大分時間経ったな)

時計は午後の8時になろうとしたところで短い針を止めていた。

「おい。今何時だ」
「10時11分47秒!!」
「ホーガンの体内時計はいつも正確ね」
「時計の電池変えとけ」
「はい!」
「彼女を迎えに行く。直帰するから、何かあったら呼べ」
「了解っ!」
「ツバキちゃんによろしくお伝えください!」

途端に元気になる部下達。彼等も心配しているのだろう。

「おう。お疲れ」
「「お疲れ様です!」」

挨拶に片手を上げて答えた俺は、手早く荷物をまとめ取調室へと向かった。

ノックを3回。

(応答…は無理か)

しかし物音もしないため、警戒を強めつつ扉を開ける。
室内は最後に訪れた時と変化は無く、目的の人物は己の腕を枕にし、机に突っ伏して寝ていた。待ちくたびれたのだろう。
彼女の手元には部下達の特徴を捉えた似顔絵が描かれたメモ。
俺と思われる絵に、誰かが赤ペンで大きく丸を付けていた。

「アイツら…ったく」

笑った顔の絵に釣られたか。自然と口角が上がる。

「おい。起きてくれ」

眠ったままの彼女の頭を撫でる。
ツバキの髪について、メリッサが烏の何たら色と例えていたが、言われてみれば確かに光の当たる角度で色が変わっている。滑らかな指通りの黒髪を何度も梳いていれば、瞑ったままの彼女の目から透明な雫が一筋流れ出た。
思わず手が止まる。

(そりゃそうか)

訳も分からないまま"境界"を越え、見知らぬ場所で気が休まるものか。
夢の中でも何かに怯えているのだろうか?その涙の理由を理解しりたくて、俺はそっと流れ出た涙を拭うのだった。

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