涙の色を教えて(2)
仕事を終えたと思ったのに、今度は自分の兄が事件を背負って帰宅した。
叫び声を堪え、家族を招き入れ、玄関ドアが閉まった途端。マーカス・ロウは口を開いた。
「で?彼女は何?」
「”次元聴閲者”だ」
「はぁ!!?」
「今回担当した事件のMVPでな。黒い靄みてぇな空間から落っこちてきやがった」
ダニエルが簡潔に特級魔道具『乖離する方舟』や事件の経緯を説明するが、聞いていて頭が痛くなる。
「警察組織を騙すことになるんだよ?遊びじゃないんだよ?」
「あぁ。知ってる」
「責任問題とか」
「分かってる」
「分かってないよ!」
「かもな」
軽口で返したつもりだった。だが、部屋の空気は言葉とは裏腹に重苦しく二人に圧し掛かる。
その間ずっと、己の腕の中で眠る"MVP"をダニエルは見下ろしていた。
思い出すのは病院での声無き叫び。ココアを美味そうに飲む姿。そして、コートのポケットの中に入れたままの感謝の手紙。
「俺の矜持が。こいつを見放すなって言ってんだよ」
「…」
「マーカス。頼む」
頭を下げる兄の姿に呆れたのか、思い切り溜息を吐かれる。
「───昔、子犬を拾って来た時があったよね」
「あ?あぁ」
「それで、家で世話できないって母さんに叱られてさ。怒られて元の場所に戻した後、ダニーはずっと心配して、ほぼ毎日見に行ってたよね。結局は里親が見つかったけれど」
「そんなこともあったな」
「彼女は犬猫じゃあないんだよ」
「おう」
「仮に"懐いた"としても、僕らはずっと危険を背負って世話はできない」
「今は必要書類が出来るまででいい」
「……了〜解」
妥協点が見つかったのか。マーカスはそれ以上彼女の滞在について文句は言わなかった。
「じゃあ準備しないと」
「あ゛?」
「この家に女の子を泊められる部屋なんてあると思う?掃除しなきゃ!」
HLDPの警察官である二人は毎日が忙しく、必要最低限の行動範囲でしか整理整頓をしていない。
そのため室内には埃が積もり、彼女を寝かせる場所すらなかった。
「ちゃんと環境を整えないと」
「…そうだな」
その日、ロウ家の明かりは夜遅くまで灯ったままだった。
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