白い理念とリボンの手錠



後頭部に触れるやわらかい布地。

(あれ?昨日家に帰ったっけ?)

仄華はゆっくりと目覚めた。
見知らぬ場所は暖かく清潔で、自分のいた家とは大違い。
頭を傾けるとコードに繋がれた押しボタン。
ナースコール。ここは病院。──助かった。
心に去来したのは。

(財布も保険証もないんだけど、どうしよう…)

金の心配だった。
高額医療費請求されたらと不安に思っていると、看護師が部屋に入ってきた。

「目覚めたんですね、おはようございます」
「あ、英語だ。ハロー」
(ん?)
「私…あれ?」
「アラ?貴女、もしかして声が……」

声が出ない。
彼女は思わず喉に手をやる。かすれた音と呼吸音しか発することができない。
ただでさえ英語はできない(成績2)。なのに、話すこともできない。
助けてもらったにもかかわらずお礼が言えず、困った彼女は眉を下げて看護師を見ることしかできなかった。
看護師はそんな仄華の表情を見て何か喋ると、部屋から出て行ってしまう。

(困ったな…)

時計の針が動く音だけが室内に響く。
彼女は点滴に繋がれた痣だらけの腕を見下ろし、目を細めた。

「汚い」

数分後、看護師が部屋に戻ってきた時。
彼女は部屋から居なくなっていた。





「いなくなっただぁ?!見張りの奴はどうした!」
「そ、それが…部屋の中から出た所を見て無いと言ってて」
「ハァ!?」

土曜の午後一で連絡を受けたダニエルは監視員の報告を疑った。

(首の呪術が発動した?まさか、『乖離する方舟』に触れたせいか?)

破壊(不可抗力)された後、次元転移術式は消滅していたため安心していたが。
術式が人へ移行していたとなると、犯罪に利用される前に対象を拘束し、場合によっては殺害しなければいけない。

「行くぞ」

腕の中で感じた重みを思いだし、彼は煙草のフィルターを噛み潰した。

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