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結局私は、半泣きになりながら審神者になる事を承諾した。

私の任務は、刀剣男子を癒すこと。そしてそれが終わったら審神者として戦争に参加することだ。
命を張るかわりに家の借金の返済金とその他に毎月の給料、昇給有り、ボーナスは年2回以上、経費申請可、有給や福利厚生、危険手当、退職金有りなど、学生の私が知っている限りの労働条件を約束させた。細かな事は追って書面で取り決めを、という事になった。

何故追ってなのかというと、すぐに刀剣男士という付喪神様のいる場所に行かなきゃ行けないからである。本当に今すぐ。部屋に荷物を取りに行く時間も心の準備をする時間もくれないらしい。ブラック企業ってこういう奴を言うんでしょ。知ってる。

借りてる部屋解約や荷物の輸送、大学の対応や両親への連絡、借金の返済はこちらで済ませておきますので、と男は言った。
私は男に渡された審神者就任書類に署名をしながらちょっと泣いた。注意事項に『歴史修正主義者に殺された場合は遺族に手当支給』とか怖い事書いてあった。すでに審神者辞めたい。

男は審神者用の端末を操作し私に手渡すと、いそいそと立ち上がった。

「これで審神者登録はOKです。申し訳ないのですが私は他にやらなければならない仕事がありますので、後のことは審神者様をサポートするこんのすけが説明します。貴方の職場となる本丸に向かいながら聞いておいてください」
「こんのすけさん、ですか」
「はい。では苗字さん、ご武運を」

男がそう言って笑うと、突然何もなかった会議室にふわりと風が流れ、薄っすらとぼやけた朱色の鳥居が現れた。

「な、なにこれ…」
「本丸への入口です。この先に刀剣男士様が居ます。……どうか、彼等をよろしくお願い致します。さ、ずずいっとどうぞ!」
「うわっ」

男に押され鳥居を潜ると、突然目の前に今までとは異なる景色が広がった。

どんよりとした雲に覆われた空に、しとしとと降る冷たい小雨。人の住んで居ない、打ち捨てられたような和風の建物。鳥居から屋敷へと続く石畳は土や泥で汚れている。あちこちに植えられた木々や草花は元は立派だったろうに、どこか元気がなくしおれているように見える。立派な和風庭園が手入れもされず放置されたら、きっとこんな風になるのだろう。

「……なにこれ、お化け屋敷?」

ひくり、と口の端が引きつった。あの男、とんでもないところに送り込んでくれたものである。思わずくぐったばかりの鳥居へ逆戻りしたけど、会議室へは戻ることができなかった。

「−−−もしかして、新しい審神者様ですか!?」

呆然としていると、突然足元から声を掛けられた。何故足元から?と疑問に思い視線を向けると、白面に隈取をした狐のような生き物が私を見つめていた。…今、喋ったのってこいつ?

「一応そうですけど…今話しかけてきた方はどこにいますか?」
「目の前で御座います!私はこんのすけと申します。審神者様のサポートをさせていただきますので、よろしくお願い致します!」
「…ロボット?」
「管狐で御座います!」
「喋る狐…」

ファンタジーだ。いや付喪神を癒す仕事は確かにファンタジーだけども。説明してくれる人って狐かよ。