Red
我慢していた涙は玄関の扉を開いた瞬間に溢れ出した。中へ入って閉じたドアに背を預け、指で涙を拭うと、すばるが向こうのドアからこちらを見ていたから俯いた。
ヒタヒタと近付いてくる足音。裸足のすばるの足が俯いた視界に入った。
『おかえり』
「...ん、」
『...何やその顔、いつにも増して不細工やな』
うるさい、ほっといてよ。
思ってはいても、声にはならない。涙も止められない。
伸びてきたすばるの手に手首を掴まれ、手を引かれて部屋へ入る。
持っていたバッグは奪われ、ぐっと腕を引いてソファの前に連れて来られると、離れた手に肩を押された。
『...とりあえずここ座れや』
言われるがままにソファに腰を下ろすと、私を見つめるすばるの視線が痛くて俯く。
『...顔、拭くで』
幾重にも重ねられたティッシュが目の前に現れ、すばるが隣に座りながら私の顔を覗き込み顔にティッシュを押し当てる。
不細工とか言っておきながら、いつもすることは優しいんだから余計に泣きたくなる。馬鹿になんかしていない。きっと不器用に私を慰めてくれているだけ。
「...痛い」
『痛いちゃうねん、拭いたってんねんから我慢せぇよ』
優しいけれど容赦なく涙を拭う手に思わずちょっと笑った。私にちらりと目を向けたすばるは少しだけ安堵したような表情を浮かべ、腕を広げる。
『...ん、ほら、抱っこしたるやん。はよ』
甘いわけでも柔らかいトーンでもないけれど、真顔で言うすばるは、やっぱり今日は私をとことん甘やかしてくれるみたいだ。
倒れ込むようにすばるの肩に頭を預ければ、背中に緩く腕が回り、耳元ですばるが小さく溜息を零す。
『…お前も大変やな』
別に何があったか聞いて欲しいわけではなかった。だから、こうして理解を示してくれるだけで充分満たされていく。私には味方がいると実感出来るから。
何も言わず、熱い瞼を閉じてただ抱き締められていた。子供をあやすように少し揺らされる体が心地良い。
『...けどアレやで、そのかわり、最近ええ女になってきたやん』
瞼の奥にまた熱が集まってきた。口元が歪み、耐えるけれど閉じた瞼の隙間から弾き出された涙は頬を伝う。
でしょ?...と涙声で強がる私の言葉に、すばるが笑いながら髪を撫でた。
End.
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