Orange
...もう限界。仕事も人間関係もあれもこれもやだ。どうして私ばっかり辛いんだろう。この気持ちを何処にぶつければ楽になるの。
『あ、おかえりなさーい!あっち居ったらドアの音聞こえへんかったー』
部屋へ入ってすぐに隆平がパタパタと駆け寄ってくる。満面の笑みで私の荷物を引ったくると、遅かったなぁと私を覗き込みながら言った。
『あれ...元気ない?どしたん?』
眉を下げて覗き込む心配そうな顔は、ギリギリ保っていた私の涙腺を緩ませた。唇を噛み締めてももう遅い。一気に込み上げた涙は瞬きと共に静かに零れ落ちた。
『...あ、ちょ、待って、てぃ、ティッシュ!』
慌ててテーブルの上のティッシュの箱を掴みこちらに戻ってきた隆平は、数枚ティッシュを手に取って丸め、私の涙を拭う。
そうされてしまうともう止まらない。隆平の優しさに触れて、涙の止め方は忘れてしまった。
『...よしよし、辛いことがあったんやね』
隆平は俯く私を覗き込み、頭を撫でながら涙が零れる度に涙を拭う。困ったように笑っていた隆平は、今は優しい表情で私に笑みを向ける。それに包み込むような優しさを感じて、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
するとまた刺激される涙腺。次から次へと零れる涙を見て、隆平がまたティッシュを取る。
『あーもう...ほら、鼻かんで。可愛い顔が台無しやで』
鼻に当てられたティッシュを奪い取って自分で鼻をかみ、すぐそこのゴミ箱へティッシュを放る。
『...どうしたら楽になる?』
隆平を見ずに首を横に振った。
優しい声色とその言葉だけで、充分。私ばかり辛いと思っていたけれど、私は充分過ぎるくらい恵まれていたのだ。
『...ほんなら、手ぇ握っとこ』
ふっと息を零して笑いながら、隆平の右手が私の両手を取って一緒に握る。ぎゅっと力を込められ隆平を見遣れば、目を細めて柔らかく笑った。
『悲しい気持ちは、俺が引き受けたるからな』
また視界が霞んで隆平から目を逸らし俯いた。今のは隆平が悪い。そんな台詞、泣くに決まってる。
『あ、そっか。抱っこのがええねんな?』
ふわりと抱き締められたその腕さえも優しくて温かくて、きっと涙は暫く止まってはくれない。けれどきっと涙が止まるまでずっと隆平はこうして付き合ってくれるから、今日はもう少し甘えさせて。
End.
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