Green
...もうやだ。泣きたい。泣かないけど!泣いたら悔しいから!でも、本当は声上げて泣きたいくらい、ギリギリ。
『おかえりー』
玄関のドアを開ければリビングの扉から顔を出した忠義がふにゃりと笑っていた。
「...ただいま」
『遅かったやん。めっちゃ待ってた!疲れたやろ?』
こちらにぺたぺたと歩いて来て私に纒わり付くところは、本当に大型犬みたい。
バッグを取り上げられて後ろからピッタリとくっつき、お腹に手を回されて歩きにくい。
けれど、こうして忠義に触れられていると、少しだけ心が穏やかになるみたい。安心すると、少し涙が滲んだ。忠義が後ろに居てよかった。
リビングに移動すると忠義が後ろから私の横顔を覗き込むように見る。
『ご飯まだやんな?』
「あー...いらない、かな、」
『...え、いらんのぉ?ちょっと待ってよ、俺食べんと待ってたのにぃ!』
不満気な声はまるで子供だ。私からぱっと離れ正面に回ると、拗ねたように眉間に皺を寄せて首を傾け、唇を尖らせる。
明らかに不満気だった表情は、私の顔を見た途端に変わった。だから思わず目を逸らして俯く。
...こういう所は敏感で困る。気付かなくてよかったのに。
すると突然忠義の掌に両頬を包まれ顔を上げさせられた。さっきの子供みたいな顔は、まるで兄のような優しい顔になって笑みを作り、目を細めて私を見つめた。
『...お風呂は、入る?入るやろ?』
小さく頷けば忠義も頷いて、頬から手が離れ抱き寄せられた。ぎゅっと体を締め付けるように抱かれてから、宥めるみたいに優しい手が背中を叩く。
それが心地良くて温かくて、ますます泣いてしまいそう。
『...一緒に入る?』
「..............。」
『なぁなぁ、入る?』
優しいトーンから一変して悪戯っ子みたいなその誘いに、思わずふっと息を零して笑った。
『...入ろ!』
「...お湯、」
『お湯?...もう入れてある♡』
私の言葉を遮ってむふふと笑った忠義の胸に顔を埋めて笑った。
さっきまでの重たい心から溶け出した負が、涙になって目尻から流れ落ちる。
『わ、何、なに泣いてるん?』
わざと驚いたように見せる忠義から顔を隠すように再び胸に顔を埋めれば、髪をくしゃりと撫でる手にまた煽られて、今日の分の涙を全て使い果たす。
End.
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