Red
インターホンが鳴ってすぐに、玄関の鍵を開ける音がした。けど、もうそろそろ帰って来るんちゃうかなー思て開けといてんけどな。
ガチャガチャと鍵の音がしているから玄関に向かい鍵を外してドアを開けてやると、#name1#が何だか変な顔をして笑っていた。
「...ただいま、」
『...飲んできたん』
「うん、ちょっとだけ」
...遅いはずや。けどなんの連絡も無しに遅くなるて珍しいなぁ。
アルコールの匂いはそんなに感じないけれど、いつもと少し違う雰囲気はなんだろう。
ヒールの靴を座って脱いで、くるりとこちらを向いた#name1#が、また微妙な顔をして笑う。立たせようと手を差し伸べるけれど、その手をスルーして立て膝のまま俺に抱き付いてくる。腰に腕を回し、ぎゅっと力を込めながら下腹部に顔を押し付ける。
『...おい、玄関やで』
下腹部に感じる熱い吐息のせいで変な気分。けど所詮酔っぱらい。
『...なんや、したいんか』
そうじゃないことくらいわかっているけれど、いつもみたいに「違う!」と言ってこないから胸がざわつく。すると、僅かに不規則な呼吸が聞こえてきて顔を覗き込んだ。けれど押し当てられた顔は見えない。...でもきっと泣いてる。
恐る恐る頭にぽんと手を置くと、鼻を啜る音が聞こえてくる。
『...なんや、泣いてるんか、』
「...泣いてない」
『いや、泣いてるやん』
顔をくっつけたまま首を横に振る#name1#の髪を、ただただ撫でるしかなかった。
『...そんなとこで泣かれたら...ちょっと、...な、』
#name1#の涙と熱い吐息で湿ってきたように感じるスウェット。腕をぐっと引っ張ると、思いの外すんなり離れて赤くなった目が染みの出来た俺のスウェットを見つめ、ふふ、と息を零して笑った。それをわざとじとりと睨んで腕を引き、立たせてリビングへ向かう。
ソファーの前でするりと腕を解けば、#name1#がふにゃりと床に崩れ落ちた。
ただ静かに、時折ぽろっと涙を零して、また涙を溜める。その繰り返し。
それを見ているだけで、何も出来ない俺。
“...褒めて欲しいわけじゃないんだけどさ、子供の頃みたいに褒められたら、もっとやる気出るのに...”
ふと、昨日#name1#が言っていた言葉を思い出した。今の涙とその言葉に関係があるかわからないけれど、ないこともない...気がする。ただ、今静かに涙を零す#name1#に『なんで泣いてる?』とか聞くのも、やっぱり気が引ける。
...正直泣かれるのは苦手だ。どうしていいかわからない。どうして欲しいかわからない。
けれど、きっと#name1#は俺に何も期待してはないない。だからただ黙って、目を合わせることもなく俯いているんだろう。
ゆっくりと手を伸ばして、俯いた#name1#の頭に手を乗せた。ぽんぽんと撫でるように頭を軽く叩いてみれば、#name1#が顔を上げてちらりと俺を見る。
...期待、はしてへんけど、なんか言いたそうな目ぇしてる。
『...どうすればええの』
「...何にも」
#name1#が少し笑って泣いて手を広げた。
...ああ、そうか。俺も同じように腕を広げると、#name1#が腕の中に入って来るから抱き寄せた。
何もして欲しくない、やなくて、ただこうしたかったんやな。
ぎこちなく下手糞にあやすように背中を叩く。子供相手とは違う、大人の女の世話は苦手。けど、こいつの力になりたいとは思う。早く泣き止め、とも思う。
俺が褒めたったらええやん。誰も褒めてくれへん...て、そんなことないで。
『...今日、可愛いやん。...服。めっちゃええやん』
首元に顔を埋める#name1#が、ふふっ、と笑う。
『肌も綺麗なったな。...涙黒いけど』
「...うるさいよ」
涙声で笑う#name1#に少し安堵する。
褒めるとこがちゃうねん、そういう事言うて欲しいんちゃう、...って思ってんねやろな。だって照れ臭いねんもん。
『...めっちゃ頑張ってんで。お前は』
笑っていた#name1#の息遣いが変わって、震えるような吐息が首筋に掛かる。縋り付くようにぎゅっと力を込めた#name1#の腕も、微かに震えていた。
『...頑張ったな。ほんま、偉い...』
背中を撫で、髪を撫で、強く抱き締め、精一杯下手糞に慰めながら他の言葉を探したけれど、見つからなかった。だからこいつが泣き止むまで、ただひたすら腕の中に抱いて、その心も、涙も全て受け止める。
I wish for the wound in your heart to heal.
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