Purple
インターホンの音でモニターを確認すると、俯いた#name1#が立っていた。いつもは自分で鍵を開けて入って来るのに、珍しい。
『おー、お疲れさん』
玄関のドアを開けてやれば、自分の家だというのに俺を見上げて苦笑いしたままなかなか入って来ないから、怪訝な顔を向け#name1#の言葉を待つ。
「...鍵、職場に忘れちゃって、」
『おん、ええやんけ。開けたってんねんから』
#name1#がまた笑顔を浮かべたけれど、不自然に不器用な笑顔に違和感を感じた。はよ入り、と顎をしゃくると、みるみるうちに#name1#の目に涙が溜まっていく。唇を噛み懸命に涙を堪えている様子の#name1#を見て、驚いて手を引き玄関のドアを閉めた。
『...なんやねんな、鍵くらいで...』
言い掛けてから気付く。鍵くらい、とかそんな問題ではない。そんな事だけで泣くわけがないのだ。きっと色んな事が重なって、“鍵を忘れた”という些細な出来事がきっかけで感情が溢れ出してしまったのだ。
「...ごめん、」
『おう』
恐らく鍵を探すために部屋の前で漁ったであろうバッグの中はぐちゃぐちゃ。そのバッグを持つ手は、親指の爪が白くなる程固く握り締められていた。バッグを掴んで軽く引くと、力が抜けてするりと手が離れたからバッグを持ってやり、もう片方の手を引きリビングへ向かう。
ソファーに座った#name1#を床に座り下から覗き込んで見れば、俺をちらりと見たあと、真っ赤な目がふっと俺から逸れた。
...ずっと我慢しとったんやろなぁ。そういやこんな顔、昨日もしてたやんけ。#name1#の「なんでもない」をなんで真に受けてもうたんやろ。
黙って涙を零す#name1#は、手で拭うこともせずただ唇を噛んでいた。
あーあー、ぶっさいくやな。そんな顔見たないねん。笑ろてた方がええわ。
『...お前アレやで』
頭にぽんと手を置いて話し掛けると、#name1#は鼻を啜って俯いた。
『...もうちょい気ぃ遣うたらなあかんて』
眉間に皺を寄せた#name1#が顔を上げ、言葉の意味を理解出来ない様子で俺を見遣る。その目を見つめて、言い聞かせるように出来るだけ優しく言った。
『もうちょい自分、甘やかしたらな可哀想やんか』
今度は言葉の意味を理解したように目を逸らし、次第にまた涙が下瞼に溜まり出した。それが瞬きと共に弾き出されて頬を伝う。
頭をわしゃわしゃと少し乱暴に撫でてやると、#name1#が顔を歪め、唇を結ぶ。
『頑張れ』
頬を両手で挟んで#name1#に顔を近付けると、涙を溜めたその目は真っ直ぐに俺を見る。
『頑張って自分、甘やかしたれよ』
ぐすぐすと鼻を鳴らす#name1#は何だか痛々しくて、普段見ている#name1#とは比べ物にならないくらい弱くて、何もしてやれない自分自身に対して焦れったいような変な気持ちが渦巻いた。
『...自分で出来ひんなら俺がしたる』
#name1#の視線が逸れていったから手を離せば、俯いて涙を零しながら小さく頷く。#name1#を抱き寄せパワーを込め一度強めに背中を叩くと、痛い、と笑った。
『よっしゃ、泣け。出るもんみんな出してまえ』
俺の肩に顔を埋める#name1#が、鼻を啜りながらくすくすと笑う。少しの安堵で思わず口角が上がって、わしゃわしゃと頭を撫でた。
抱き締めた腕から不思議と#name1#の感情が読み取れる気がして、全部理解してやれるように、抱く腕に力を込めた。
End.
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