Yellow
ベッドに寝転がっていたら玄関のドアが開く音がした。廊下を歩きリビングへ向かう彼女の足音を聞きながら体を起こすけれど、いつもよりも随分と足音が大きい。ベッドから立ち上がったところで、隣のリビングからドン、と床に何かを打ち付けた様な大きな音がして、慌てて飛び出す。すると、#name1#が床に座りソファーに突っ伏してした。
鼻を啜る音と、泣いているような荒い呼吸にちょっとドキリとする。ゆっくりと近付いて隣にしゃがみ込み、ぽんと頭に手を乗せると、#name1#の体が驚いたようにぴくりと揺れた。ほんの少し顔を浮かせたけれどその目は俺を見ない。俺に顔を見せることもない。
「...居たんだ、」
『...おん、居ったよ、』
その涙声に胸がきゅっと引き攣れる。顔を上げないということは、見ないで、のサインということだろうか。
戸惑いながらも頭に手を置いているけれど、正直どうしていいのかわからない。
「...あっち行ってて、」
『...え、あ...おん、』
けれどどうしようもなく心配で、放って置けるわけがなくて、その場でただその背中を見つめて戸惑う。
...どうしよ。...このまましとくとか嫌やねんけど。理由は聞いたらあかんかな。...あかんな。あっち行け言うてるし。...けど、行けるわけないやん...。
......次怒られたら、あっち、行こかな。
#name1#の後ろに回って座り、恐る恐るお腹に腕を回してみる。背後から緩く抱きしめてみるけれど、意外にも身を捩ったり嫌がったりする様子がなかったから、背中に頬をくっつけ抱き締めていた。
しゃくり上げるたび背中から伝わる荒い呼吸と、少し早い鼓動が痛々しい。
...なんやねん、何泣いてんねん...。俺まで泣きそうになるやん...。
昨日の夜、苛立ちながら幾つも書類を捲り溜息を吐いていた光景を、倒れたバッグからはみ出した書類を見て思い出す。
最近めっちゃ機嫌悪いやん、...とか俺が拗ねてる場合ちゃうかった。もっとはよ話聞いたればよかったやんな。
『...あのさ、』
伺うように話し掛けてみるけれど返事はないから、ゆっくりと背中から離れ頭に手を置いてみる。ポンポンと撫でれば少し顔が上がったから、#name1#の視界に入るように手を伸ばした。すると手を広げる俺をちらりと見て、こちらに体を向けたからその体を正面から抱き締める。包み込むように緩く抱いてやれば身を委ねた。
『...あのさ、』
「...うん、」
『...そんなに頑張らなあかんの...?』
#name1#が黙った。息を詰めたように静かになって、暫くすると震える息を吐き出し、俺の肩に顔を埋める。嗚咽を堪えるように時折息を詰めるから、背中を摩った。
『もうちょっとだけ手ぇ抜くとかさ、あかんの...?』
...わかってるよ。出来ひんなんてわかってる。けど、こんな姿見たら甘やかしたくなってまうやん。
『...充分頑張ってるやん』
しがみつくように背中に回された手が俺のTシャツを掴む。
偉そうにこんな事を言ったって、本当はその気持ちがよくわかる。今の#name1#が、葛藤を繰り返した昔の自分と重なって胸が熱くて、その体を抱き締め目を閉じた。
だって自分ではないんだ。#name1#なんだ。自分で我慢したり苛立ったりするのとはまた違う。
あの頃の気持ちを思い出す程胸が痛くて、#name1#の心が心配になる。
『...いつも見てるで、俺』
あの頃の俺は強がってばかりで誰に頼ることも出来なかったけれど、今こうして#name1#を抱き締めていられるのは俺なのだから、俺が力になればいい。
『...頑張ってるよ、大丈夫やって』
鼻を啜って俺の肩から少し顔を上げた#name1#が、ティッシュに手を伸ばした。数枚取って渡してやると、真っ赤な涙目が俺をちらりと見てティッシュを受け取る。するとまた俯いて目元にティッシュを当てた#name1#の唇が笑みを浮かべた。
「...亮まで涙目、」
俺は今どんな顔をしているんだろう。力になると言いながら、涙目の上に情けない顔をしていないだろうか。
『お前のせいやろ』
笑う#name1#に少し安堵しながら俺も笑みを作った。 また顔を埋めてしまった#name1#の背中を宥めるように摩っていると、小さな声で「ありがとう」と聞こえてきてまた胸が熱くなる。その声で、もう既に#name1#がひと回り強くなったように感じた。それが良い事なのかどうか正直よくわからないけれど、いつでも彼女が寄りかかれる存在であるために、力を込め抱き締めた。
End.
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