Green
玄関の向こうで音が聞こえたから、ドアに鍵が刺さる音がしたけれど鍵を開けてゆっくりとドアを開けた。
『おかえりー!』
驚いたようにドアの隙間から俺を見た#name1#が、鍵を抜き笑顔になって「ただいま」と部屋に入って来た。
季節の割に薄着のその体を見て肩に触れると、案の定冷たくなっていたから部屋に引き入れて抱き締める。
『体冷た』
笑いながら腕に力を込めると、腕の中で#name1#がふっと力を抜いたように感じた。そのまま俺に体重を預けるように、胸に顔を埋めた。
「...あは、やばい、」
『え?』
ふっと息を零して笑う#name1#に聞き返してみたけれど答えは返ってこなかった。すると背中に腕が回って、#name1#の掌が俺の服をぎゅっと握る。
『何?どうしたん?』
妙に熱い吐息を胸元に感じてドキリとする。抱き締めた腕は、きっと寒さからではない体の震えを感じ取った。
『...泣いてるん...?』
誰に聞かれているわけではないけれど、小さな声で問い掛ける。けれどやっぱり返事はない。その代わりに、もう一度熱い吐息が胸元に篭った。吐き出す時の苦しそうに震える息が、胸を締め付ける。
彼女が泣くのは、何度経験しても慣れることはない。今も戸惑って鼓動が早くなっているから、胸にくっついた#name1#にそれが伝わっていたら恥ずかしい。
俺がちゃんと頼れる男にならな寄り掛かられへんのにな。
冷えた体を温めるように、労るように背中をゆっくりと摩る。
大丈夫?
なんで泣くん?
何があった?
...どれも相応しくない気がして、他にどんな言葉を掛けていいかも俺にはわからないから、黙ったまま、ただ落ち着くように背中を撫で続けた。
暫くすると、一度鼻を啜った#name1#が胸元でくぐもった声を漏らした。
多分、ごめん、と言われたような気がする。
なんのごめんなんやろ。泣いてごめん?訳を話せなくてごめん?わからんけど、謝られるようなことなんもないし、寧ろただ居るだけの俺が『ごめん』って感じやねんけど。
『...んーん、全然』
とりあえず言うてみたけど、全然てなんやねん。なんかもっと気の利く言葉言うたれへんのかな、俺。
『...俺が居るよ』
自分でもクサイような気がして顔が熱くなった。けれど、本心なのだ。何もしてやれないけれど、気の利いたことも言ってやれないけれど、ただ近くに居て抱き締めて涙を拭いてやることは出来る。...俺にはそれしかない。
『だから、泣くならここで、...な?』
だって涙は誰にでも見せれるもんちゃうやろ?だから他の誰でもなく、俺の前がいい。
こんな時に独占欲出してる場合ではないけれど、でもやっぱり、守りたくなってしまうようなその弱さは、他で見せて欲しくないんだ。
すると#name1#がまた震えるような吐息を吐き出して、鼻を啜る。呼吸が荒くなる。
...あ、やば。また泣かせてもうた。
「...めんどくさいでしょ、私、」
『んは、大丈夫。全然』
涙声でそんな事を言うから思わず笑ってしまった。俺が今考えていたことを口に出したら、#name1#は少しは安心するだろうか。
でも言わない。俺の心の中のこの独占欲は、ちょっとだけかっこ悪いから、黙っておく。
しゃくり上げる#name1#の背中をポンポンと叩けば、今度は“ごめん”ではなく、“ありがとう”が返ってきた。
ええこと言うた、俺。ちょっとだけ満足したのも言わないことにして、笑みの浮かんだ唇を#name1#の髪に押し付けた。
End.
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