交際期間、1時間30分。
歌詞が出ているモニターを眺めているけれど、触れ合っている左側にばかり意識がいってしまって全く集中出来ない。それが離れたと思ったらマルちゃんの肘が私の腕を啄いて、体がびくりと揺れた。
『あのさ、...番号』
ギリギリまで耳元に寄せられた唇にドキドキする。笑顔で頷いたつもりでも、上手く笑顔が作れている自信はない。
歌い終えた友人に慌てて拍手をして携帯を取り出した。携帯を奪われ、マルちゃんが番号を入力していく。
マルちゃんの横顔をちらりと盗み見る。大好きな笑顔とそのえくぼ。それに見とれていたらマルちゃんが『入れとくな』と言いながら最後に入力された“丸山隆平”に、さらに鼓動が早くなる。見て、と指さされたその名前を覗き込むと、思いの外顔が近付いたから慌てて二人で離れる。少し顔を赤らめて照れ笑いするマルちゃんに、胸の奥がぎゅっと掴まれるみたい。
交際期間、1時間30分。
放課後クラスメイトたちとこのカラオケボックスに向かう途中、元気のないマルちゃんが気になっていた。歩きながら後ろを歩くマルちゃんを何度も振り返って、ちらちらと様子を伺っていたら目が合った。見ていたことがバレたら恥ずかしいから精一杯の笑顔を向けて前を向いた。
程なくして隣にマルちゃんが並んだから驚いて隣を見上げると、前を向いたまま言われた。
『.....好きです』
思わず足を止めた私を見てマルちゃんも足を止めた。
『...けどさぁ、まだあの、アレやから!...とりあえず、番号とか、メアドとか、諸々...』
...マルちゃんが私を。嘘みたい。信じられない。
「...私も、......好きです、」
マルちゃんの驚いたような慌てたようなあの顔は、きっと一生忘れられない。
そのあとに見せた真っ赤な顔に浮かべた極上の笑顔も、胸に焼き付いて離れない。
みんなには何となく言えずに、そのまま隣に座った。
嬉しいけれど恥ずかしくて、まだ信じられなくて、なかなか顔が見れないでいると腕が触れた。歌っていても聞いていても、ずっとこのまま。
『ここ出たらさぁ、二人で帰らん?』
また耳元で囁かれ、ぶんぶんと首を縦に振った。離れてふにゃりと笑ったマルちゃんが私を見ている。笑顔でずっと見つめるから落ち着かない。
するともう一度顔を寄せてマルちゃんが言った。
『...どうしよ、楽しみ過ぎて待ってられへん』
離れてさっきよりさらにふにゃりと笑うマルちゃんは、私から見てもデレデレで私も思わず頬が緩んだ。
すると急にマルちゃんが立ち上がったから驚いた。
『ごめん!帰るわ!』
曲の切れ間に大きな声で言ったマルちゃんが、みんなにへラっと笑って私の手を掴み引き上げた。みんなの視線が集中する中、そのまま手を引かれ部屋から出る。
大股で軽やかに歩くマルちゃんに小走りで着いて行く。走っているせいだとは思えない程、心臓がバクバクしている。
外へ出ると掴まれていた手が離れ指が絡め直された。勿論手を繋ぐのも初めて。少し湿ったお互いの手が密着するようにくっつけば、マルちゃんがますます力を込めて手を握る。
近くの公園に足を踏み入れると、マルちゃんがキョロキョロと辺りを見回して端に移動する。ピタリと足を止めたマルちゃんは、私と向かい合って私の両手を取った。赤く染まった頬を見て自分まで恥ずかしくなる。
『...一回、抱き締めてみてもいいですか!』
面と向かって聞かれて、動揺しているうちにゆっくりと抱き締められた。徐々にぎゅうっと力が込められて、一緒に心まで締め付けられたみたいに胸が苦しい。泣いてしまいそうなほど胸がいっぱい。
『...あー、もう...どうしよ、...めっちゃ好きやぁ...』
はぁー...とゆっくり吐き出された息が、なんとなく笑っているみたいに感じた。そんな言葉も抱き締められる腕も、全部が初めてでドキドキする。
『...#name1#...ちゃん、?』
掠れたような声にドキリとした。咳払いしてもう一度私を呼び直したマルちゃんの胸から、驚くほど早い鼓動を感じる。
『...さっきな、携帯にな、“#name1#”って...登録してんけどな?』
「...うん、」
『......あの、...せやから、』
「......うん、」
『...#name1#って、呼ぶな、?』
「...うん」
抱き締められていてよかった。ありえないくらい顔が火照っていて、真っ赤になっているはずだから。
はぁー...とまたゆっくり吐き出された息が、今度は妙に震えている気がしてなんだか嬉しくなる。同じようにドキドキしてくれて、私と同じように愛しい気持ちでいてくれているのなら、嬉しくてたまらない。
『...#name1#、......#name1#ー、好きや』
ふふ、と笑いながらマルちゃんが私を抱き締め直す。
これから毎日こんなにドキドキさせられたら、心臓がもたない気がする。けれど、今知ったばかりのマルちゃんの腕の感触も愛しい照れ笑いも、自分の胸の中の甘いような切ないような胸の苦しさも、毎日でも味わっていたいくらい、幸せ。
End.
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