TWINS!!~Beginning~
『TWINS!!』過去。
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修学旅行に必要なパスポートの提出期限が迫っているらしい。
亮ちゃんがそう言っていたから、目を丸くしたまま章大と顔を見合わせて、慌てて役所へ走った。
『と、とうほん?しょう...?なんやそれ、どっちや!』
「どっちでもいいです!」
『くっそ!亮電話出ぇへん!』
『...パスポートですか?パスポートならどちらでも大丈夫ですよ』
『ほんならどっちでも!』
「えっと、じゃあと...」
『とうほんで!』
窓口のお姉さんを困らせて馬鹿みたいに笑いながら待っている。頭の中は修学旅行への期待でいっぱいだ。
『安田章大さーん。安田#name1#さーん。』
「はーい」
二人で駆け寄って封筒に入るそれを章大が受け取った。
役所を出て封筒から戸籍謄本を引っ張り出した章大が、感心しながら眺める。
『何これー。めっちゃええ紙使てるやん』
「え、そこ?」
『こういうのんちゃんと見るの初めてやー』
「そうだね。見てもつまんないしね。...どしたの?」
急に足を止めた章大を振り返った。その紙を見つめたまま動かない章大の肩を叩くと、慌ててそれを封筒へと押し込みながら歩き出した。無理矢理押し込まれた紙がぐしゃりと音を立てたから「あー!」と声を上げて章大から封筒を取り上げた。するとすぐにまた奪い取られたから、怪訝な顔で章大を見た。
「...なに?」
『...んーん。なんも』
「...ふーん」
章大が胸に封筒を抱いて顔を背けたから、再び奪い取って紙を引っ張り出した。
『...#name1#っ、!』
私へ伸ばした章大の手を払い除けると、章大が青ざめた顔で私を見ていた。ただならぬ雰囲気に、ゆっくりと紙に目を向けた。
「...章大、」
『..........、』
「...これ、何、」
『...そんなん、わかれへんよ、』
「...何これ...なんなの、」
『.............、』
私の名前の横には “ 養子 ”という文字が並んでいた。
私から戸籍謄本を取り上げた章大が、少し乱暴に封筒へ押し込んで歩き出す。俯き立ち尽くす私を振り返り章大が戻って来て手を取った。手を引き歩き出した章大は、何も言わず、ただぎゅっと力を込めて私の手を握った。
家の前まで来て立ち止まる。お母さんもお父さんも仕事でまだ帰っていないけれど、家に帰るのが急に怖くなった。私一人だけが他人なのだと思うと、怖くて仕方なかった。
そんな私を振り返って、章大が言った。
『...#name1#、大丈夫やから、家入ろ、...な?』
少し強めに手を引かれて、重い足を無理矢理動かした。玄関を入ってそのまま階段を上がり部屋へ入ると、章大が私を見つめていた。
『...一人の方がいい?』
「...ううん、」
『...ほんなら、居る』
章大が静かにドアを閉めてベッドに座った。章大から少し離れてベッドに座ると、章大が手を差し出したから、その手を握った。
酷い扱いを受けたことなんて一度もないのに。今までずっと、章大と同じように愛されてきたのに。急に両親を信じられなくなってしまった自分に嫌気がさした。
...それともう一つ、自分の中に異常な感情があるのに、気付いていた。
きっと誰も悪くないけれど、やり場のない気持ちに胸が締め付けられる。
『...泣いたりしないんやな?』
「...うん、...何でだろうね、」
私の様子を伺うようにちらりと見てから、章大の視線が窓の外に向いた。
『...俺な、当たり前やけど、めっちゃショックやってん、』
「...うん、...私も」
『...けどな、...けど、』
章大を見たけれど、目は合わなかった。俯いて、繋いでいない方の拳を見つめたままだ。
『...俺な、...気付いてたんかもしれん、』
「...え?」
『ちゃうよ。知ってたとか、そんなんやなくて、』
やっと章大がこっちを見たと思ったら、章大の瞳が揺れていた。
『...こんな時に、めっちゃ狡いこと言うで。俺...』
先を促すようにじっと見つめたら、章大の目から一粒、涙が零れ落ちた。
『...知ってたわけちゃうけど、きっと、気付いてたから、...好きに、なってもうたんや...』
聞き返さなくても、章大の言った言葉の意味は、すぐに理解した。
ほんの少し、びっくりしたけれど。
『...ずっとな、俺っておかしいんや思ててん、』
また一粒涙が落ちて、繋いだ手が強く握られた。
『...だからな、不謹慎やけど、...少し安心した、...ごめん、』
わかってる。本当の双子じゃなかったのに、気持ちが痛いほどわかる。
だって、私も同じなんだから。
「...ほんと、狡い、」
『...ごめんな』
「...よかったって思っちゃうよ」
『...何、...意味わからん、』
「...だから、...これでよかったんだね、...だって、私も好きだもん、」
涙の溜まった目を丸くして私を見つめた章大が、私にゆっくり手を伸ばし抱き締めた。最後に見た顔は幸せそうな顔ではなかったけれど、それでも今こうしていることが私の救いだ。
暫く何も言わずに抱き合っていた。
複雑な心境の中にでも、確かに微かな幸せは存在していて章大の背中を力を込めて抱き締めた。
少し体を離して見つめた章大が、唇を近づけて触れる手前でピタリと止まった。
『...ずっと家族やで。当たり前や。...けど、...今日から俺の。な?』
唇が触れて、初めて涙が溢れた。
その涙の意味は考えないようにした。
零れ落ちる涙を章大の指が何度も拭う。視線が絡めば微笑んで、また唇が触れた。
「明るく...行く」
『せやな...それが一番やな』
ごはんよー!と聞こえてきたお母さんの声に、ドキリとして拳を固く握ると、その上から手を握った章大にポンポンと背中を叩かれ、部屋のドアを開けた。
そわそわしながら食事をしていると、お父さんが帰って来た。
食べ終えてから食器を運ぶお母さんと新聞片手にビールを飲むお父さんを見て、章大をちらりと見た。すると、微笑んで小さく頷いた。
『...おかん!』
「あのね、今日ね、戸籍謄本取りに行ったの。パスポートのやつ」
お母さんが口を大きく開けたまま私を見た。お父さんは新聞に視線を落としたままだ。
『忘れてた!』
『...え?や、もうな、二人で取って来たからそれはええねん。...そうやなくて、』
「...養子のこと、なんで言ってくれなかったの」
お母さんが首をぶんぶんと横に振るから二人で首を傾げた。
『養子だってこと、忘れてた!』
章大と顔を見合わせると、章大越しに見えたお父さんが新聞に目をやりながら吹き出すように笑った。
丸くなっていた章大の目が細められて、お父さんみたいに笑いながら私の頭を撫でた。
リビングを出て扉を閉めると、すぐに手を繋いだ。そのまま階段を上がると、私の部屋の前で強めに手を引かれて部屋を通り過ぎた。二人で章大の部屋に入ると、章大が黙って私を抱き締める。首筋に顔を埋めてきつく締めつけるから「痛い」と零すと、章大が笑顔で顔を上げた。
『俺等のこと、...言うてまう?』
「...駄目だよ、」
『隠し事、下手くそやん。#name1#』
「...けど、」
『俺な、覚悟出来てる。せやから、いつでも言うて』
「.............、」
『守るから。...やから、それまで内緒。な?』
そんなに簡単じゃないことくらいわかっている。けれど、私を抱き締める腕がこんなに強くて逞しいことを、今まで知らなかった。
『愛してる、』
子供らしくない大人の真似をしたクサイ愛の言葉と震えるほど私をきつく抱く腕に章大の本気が見えた気がして、涙を堪えて縋りついた。
End.
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