TWINS!!~W birthday~
『#name1#ー、買い物行って来てー』
夕方、一階のお母さんが私を呼ぶ声で目を覚ました。部屋のテレビも点けっぱなしで、いつから寝ていたんだろう。
横向きの体を起こすと同時に、後ろから腰に絡み付いた腕に驚いた。振り返ると、目も開けないまま亮が私に縋るように力を込めて、すぐにふっと力が抜けたかと思うと腕が滑り落ちた。
また勝手に部屋に入ってきてる。お母さんが来たらまずいから隣で寝るのはやめてと言っているのに、いつも適当な返事をしてこうしていつの間にか居るから本当に困る。
『#name1#ー!早くー!』
呼び掛けに慌てて大きな返事をするけれど、その声でも亮の瞼はぴくりとも動かない。
私が部屋にいなければお母さんがわざわざ2階まで上がってくることもない。だから亮に布団を掛け、テレビを消して部屋から出ようとすると、携帯のバイブ音が小さく聞こえる。自分のポケットの中の携帯は静かなままで、音を頼りに布団を捲って亮の携帯を探す。亮のお尻のあたりにあるそれを手に取って亮を揺すれば、眉間に皺が寄った。
けれどすぐにその手を止めた。
ディスプレイに表示されていたのが、同級生の女の子の名前だったから。
思わずそれを強めに亮の肩に押し付け「電話!」とわざと耳元で言って、驚いたように飛び起きた亮を横目に部屋を出た。
別にいい。女の子からの電話くらい、しょうがないと思う。いい気はしないけど、亮はモテるから本当にしょうがないとは思ってる。
...けど、あの子は別。亮のことが好きだから。
亮に言ったら『有り得へん!』と笑っていたけれど、私にはわかる。同じ人を好きなんだから、わかんないはずない。
買い物リストをひったくるようにお母さんから受け取って家を出た。あんな風に妬いてしまったことが、今更恥ずかしくなって来たから。
買い物の途中、メッセージを受信した。亮からだったけれど内容は見ずにポケットへ携帯を押し込んだ。
毎日会っている人をいちいち気にしていると思われたらアレだし、あの名前をやっぱり見ていなかったことにしようか、それとも...。
考えながら、少し薄暗くなった帰路を溜息をつきながら歩く。
家の前まで来た時、玄関の方からの話し声で足を止めた。
...見なくてもわかる。この声は、あの子だ。
ちらりと覗けば、カラフルな紙袋を亮に差し出していたから顔を引っ込めた。
『......おめでとう、』
震える声で、消えそうなほど小さく呟いた彼女のセリフを聞いて踵を返した。
いつもの強気な彼女とは違い過ぎる本気に、何だか複雑な気分になって胸が少し痛む。
だから言ったじゃない。絶対に好きだって。
近くの公園に入ってブランコに腰掛けた。
...お母さん、困ってるかな。パーティーに間に合わないかも。すぐ使いたいから早くって言ってたのに。
いつも誕生日は外で友達と過ごしていた亮が、久し振りに家にいるって言うから、お母さん張り切ってるのに。
でも悪いのは亮だよ。あんなとこで話してるのが悪い。
顔を上げたら、公園の向こう側をあの子が歩いていた。手に、さっきの紙袋を下げて。
『おい!』
振り返るといつもよりこわい顔をした亮がこっちに走って来た。私の掴むブランコの鎖を掴んで苛立ったように一度カシャリと揺らされた。
『何しとんねん!』
「......なにが」
『スーパーで待ってろ言うたやろ!』
「......見てないもん」
『なんで見てへんねん!』
外なのに声を荒らげるから周りを見回して亮を見上げた。何そんなに怒ってるの。
「...見られると困るから?」
『はぁ?』
眉間に皺を寄せて私を見つめた亮が、苛立ったようにまたブランコを揺らした。
『...危ないからやろ!暗なってきたから!』
持っていた買い物袋をひったくられ手を痛いほど乱暴に掴まれて立たされると、そのまま強く引かれ公園を出た。その手が少し緩んで滑るように移動し、今度は手が握られる。
『...誕生日プレゼント、やって』
「うん」
『返した』
「うん」
『......うん、そんだけ...』
「...うん」
それきり黙ったまま手を引かれていた。本当は誰かに見られたら困るけれど、今はどうでもよかった。
自宅に入って私を振り返ると、玄関でするりと手が離れる。先に部屋に入っていった亮がお母さんに『遅い!』とか言われながら笑っている。
「遅くなってごめんね」
言いながらドアから部屋を覗くと、お母さんが含み笑いして言った。
『女の子が来てて迎えに行くの遅くなったんだよねー?』
『うるっさい!』
ドアの方に歩いてきた亮に道を開けると、階段の下まで行ってから戻って来て手を掴まれた。一緒に階段を上がって亮の部屋まで引っ張られると、ドアに鍵をかけて亮が私を見た。
「料理、手伝わなきゃ」
『大丈夫やろ、別に』
「亮がいるから張り切ってるんだよ」
『“俺ら”がいるから、やろ』
黙った私を睨むように亮が見つめた。
毎年少し躊躇ってしまう。私がこの言葉を言うと、同じ言葉を返されるから。
「...誕生日、おめでとう」
『...せやから、お前もやろ』
「...うん」
双子だけれど、本物ではない。
同じ歳で誕生日が別々の兄妹はおかしいから、亮の誕生日に合わせた偽物の双子。自分の誕生日なんて知らない。
『...#name1#、...おめでと、』
「...うん、」
俯いたら抱き締められて、私の肩に顎が乗せられた。
一年前の今日は、まだこの腕の逞しさを知らなかった。こうされるだけでこんなにも幸せになれることを、知らなかった。
『いつ生まれたかとか、関係ないやん』
「...別に、気にしてないもん」
『#name1#が生まれて来てくれてよかったー、とかさぁ、誕生日だけやなくても思てるし』
「...............、」
『...せやから、』
「......気にして、ないってば、」
『...ん、そっか、』
本当に胸がいっぱいで、だけどどうしようもなく恥ずかしくて、愛しくて苦しくて色んな感情が入り乱れてそんな言葉しか出て来ない。
けれど、笑っていたから亮にはきっと本心ではないとバレている。
腕が緩んで少し体が離れたけれど、亮の顔が見れない。いつもならすぐにキス、のタイミングが、今日は少し間が空いたからちらりと亮に目をやる。
『...あのさぁ...』
「...うん、」
『気にしてへんらしいけど!...気にしてなくてもさぁ、...いつ生まれたかより、今一緒に居ること、大事にせぇへん?』
亮がモテるのも、女の子からの電話も、プレゼントを貰うのも、...本当は話しているのだって全部嫌だ。
けれど、今のは効いた。全部忘れるくらい、心の中が亮でいっぱいになるくらい、すごく効いた。
何も言わない私の唇に、亮が軽くキスを落とした。目が合うと居心地が悪そうに視線を逸らすから、ますます愛しくてたまらない。
「...気にするの、やめる」
『気にしてへん言うたやん』
ふっと笑った亮がまた唇を寄せて、優しくキスを落とす。好きだと言われているみたいなそのキスが、さっきの言葉と相まって目頭を熱くさせる。
だからお返しに、心の中で愛してると繰り返しながらきつくきつく抱き締めた。
Happy birthday!! 2014.11.3
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