Keep a secret, will you?
『なくなや、#name1#。ないたあかん』
「...だってぇ、」
『おれがおるやろ!ないたあかん!』
「...んふふ、くすぐったい、」
小さい頃から、それはおまじないみたいなものだった。泣いた私のほっぺにキス。擽ったいと笑うと、侯も笑う。
『好きな奴、居ったんや?...初耳』
侯が伺うようにちらりと私を見たから目を逸らした。
あんたのことだよ。...なんて、言えない。
「...でも、大丈夫。...思ったより平気」
『...へこんでるくせに。よう言うわ』
平気なわけがない。侯と付き合いたいなんて思っていたわけじゃない。...けど、実際に侯のラブシーンを見てしまったら、もう崩れ落ちそうだった。
隠し事はすぐにバレてしまう。いつも私をよく見ているなぁ、と思う。
さっきだって『何かあったやろ』と侯から声を掛けてくれた。「失恋」と一言答えた。余計な事を話してしまわないように。
私のベッドに座っていた侯が、ベッドの下に座る私の横に腰を下ろした。
侯の顔がこっちを向いたと思ったら、頬に温かくて柔らかい侯の唇が一瞬触れた。今触れた場所を手で押さえ侯を見ると、侯は赤い顔を隠すように顔を背け窓の外に目を向ける。
...そんなに照れるなら、しなきゃいいのに。
「...泣いてないよ」
『...泣きそうやん』
子供の頃から慰め方は変わらない。擽ったいと笑わなくなった今でも、キスは繰り返される。
ずっと、頬にだけれど。
「...侯はさ、彼女が居ても、私にはキスするの?家族だから、平気なの?」
『...そんなん考えたことないわ。...彼女、居れへんし』
...嘘つき。
今日だよ。さっき。
見ちゃったんだから。侯がキスしてるの。
私には報告してくれないんだなって、悲しかったんだから。それ以上に悲しい理由もあるけれど。
...でも、言えない。見たなんて言ったら、報告されるに決まってる。
結局私は、報告されたいのかされたくないのか、どっちなんだろう。
でもきっと、報告なんてされたら、それこそ泣き出してしまいそうで絶対に無理だ。
翌朝、侯が私の部屋に来た。ドアを少し開けて私を見ると、心配そうに言った。
『行けるか?』
「うん、大丈夫」
安心したように頷いた侯と一緒に家を出た。歩きながら無言で何度も私の様子を伺う侯をパンチして「大丈夫だってば!」と笑った。
昇降口で、小さく侯を呼ぶ声が聞こえてドキリとした。振り返ると、昨日侯とキスをしていた女の子だった。
『横山くん、...昨日、ごめんね、』
『...ああ、...おん、』
ごめん、て何だろう。
ちらりと私を見た侯が、俯く女の子に視線を移して、私に『先行って』と言った。頷いて背を向けて歩いた。
やだ。嫌だ。行かないで。
少し進んでから振り返ると、何処かに向かおうとする二人を目で追う。校舎から出て行く侯を見て、勝手に足が二人を追い掛けた。
校舎の裏で向かい合った二人を、息を潜めて見つめる。
『...ごめん、ちゃんと考えたんやけど、...やっぱり付き合えへん、』
『...どうしても?』
『...おん、ごめんな、』
急いで校舎へと駆け込んだ。屋上目指して一気に階段を駆け上がる。屋上の扉を開けてフェンスまで走ると、涙が落ちた。
何泣いてんだ、私。涙が出るくらい安心するって、本当にどれだけ侯のことが好きなんだろう。涙、止まんない。...本当に、バカだ。
しばらくすると、後ろで扉が開く音がしたからちらりと目を向けたら、侯が歩いて来ていた。
『教室居れへんから、心配したやん』
「...さぼろっかなーって、思っただけ」
『...泣いてたん?』
もう。ちゃんと拭いたのに、なんでバレるんだろう。嬉し泣きなんて、さすがに言えないし。
侯の手がわしゃわしゃと私の頭を撫でたから侯を見ると、侯が前を向いたまま、険しい顔をしていた。頭を撫でていた手が止まったと思ったら、侯が顔を私に向けた。
『...泣いたあかん』
怒っているみたいに言われたから、驚いた。こんなこと、初めてだ。
『...もう限界や、...他の男のことで慰めるんも、...こんなキスで我慢するんも、』
意味を理解しようと頭の中で繰り返すうちに、侯の唇が私の頬、ではなくて、唇に触れた。唇が触れたまま荒っぽく抱き寄せられ、力を込めてきつく抱き締めた。
「...侯、... 私のこと、...」
『...悪いんか。...黙れ』
再びぶつかった唇の隙間から侵入した侯の舌に弄ばれて、二人で縋り付くように抱き合って求め合った。
End.
- 4 -
*前次#
ページ: