euphoria


TWINS!!~Beginning~


『TWINS!!』過去。

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学校をサボって一日中ブラブラしていた。お父さんとお母さんに心配をかけるわけにはいかないけれど、学校はきっとすばるが何とかしてくれる。
何をするわけでもなく一日中歩いて、気付いたら夕方で、信ちゃんの家の前にいた。

『お、なんや』

家の前でしゃがみ込む私の腕を掴んで引き上げてから、 次から次へと質問を投げ掛ける。

『こんなとこでなにしとんねん』
『休んだんちゃうんか?』
『どっか行っとったんか?』
『すばるに会うたか?』

とりあえず最後の質問にだけ首を横に振って答えると、言葉を発しない私をじっと見つめて信ちゃんが声のトーンを落とした。

『もーほら、はよ行くで』

背中を押され歩き出すと、すぐそこの公園へ向かう。

『お前部屋連れて上がるとオカン煩いねん。手ぇ出すなよー言うて』

私の雰囲気で何か察したのか、信ちゃんがわざと明るく大袈裟に笑って私を振り返る。
ベンチに腰を下ろした信ちゃんの横に立ち俯くと、信ちゃんが私を見上げてから目を逸らし、同じように俯いた。

『...ほんで?』

唇を噛んだら、視界が揺れたから焦る。後ろで結んでいたシュシュを外して髪を下ろし顔を隠す。大きく息を吸いこんだら、吐息が震えていた。
信ちゃんは私を見ない。まるで今から私が話そうとしている内容を知っているみたいに、ただ黙って私の言葉を待つ。

「... 私ね、」

ここまで来たのに、言葉にするのを躊躇った。けれど、1人では抱えきれなかった。誰かに聞いて欲しかった。簡単に他人に話す事ではないけれど、信ちゃんは他人ではないし、私にとって“簡単”でもなかったから。

「...私、すばると兄妹じゃないんだって、」

声が震えた。途切れ途切れの告白の後、涙が零れた。一粒零れたら次々に涙が溢れてきたけれど、拭う余裕もなかった。

『...すばるは?なんて?』

驚いた様子を見せない信ちゃんは、やっぱりこの事を知っていたのかもしれない。

「...まだ、会ってない」

頷いた信ちゃんはベンチの横をポンポンと叩き、私に座る様促す。だから隣に腰を下ろすと、信ちゃんがバッグの中からくしゃくしゃのタオルを出して私に差し出す。

「...いらない」
『...んやねん、せっかく気ぃ効かしとんのに』

ブツブツ呟くと信ちゃんは、ただ黙っていた。私を見ないし、何も聞かない。手にしたタオルをじっと見ているだけ。

「...知ってたんだ?信ちゃん」

その問いにさえ答えなかった。けれど、俯いたまま困った様に頭を掻いたところを見ると、やっぱり知っていたんだろう。でもそれを責める気にはならなかった。それは両親やすばるに対しても同じだった。愛されて育ってきたのは自覚している。今までに一度も、酷くされた事などなかったのだから。

けれど、この妙な感覚は何なんだろう。泣いて幾分かすっきりしてきた頭の中に浮かんだ光景。
生まれてからずっと一緒だと思っていたはずなのに、幼いすばるに『おれがおるで』と手を取られて駆け出したことが私の記憶の始まりであるような気がしている。だから私の中に変にすんなりと受け入れようとしている部分があるのかもしれない。

「...でもね、...ちょっとだけ、安心したかも」

やっとこっちを向いた信ちゃんの目は私を憐れむ様な目ではなかった。その言葉の意味までも理解したような目だった。『なんで』と聞かれなかったのだから、きっと理解している。

自分でもその言葉を信ちゃんに言えた事に少し驚いていた。誰にも言ってはいけない気持ちのような気がしていた。すばるに対する感情が恋であってはならないと、自分自身でずっと否定し続けてきたのだから。自分の気持ちが異常なものではなかったという安堵。けれど複雑な感情の中に浮かぶ安堵に戸惑いもある。
いくら本物の双子でなかったとはいえ、兄妹である事に変わりはない。この想いを自覚してしまったこれからも、それはずっと変わらずに隠し通して家族でいなければならないのだから。

二人言葉を交わさずにどのくらいそうしていたのだろう。辺りが薄暗くなり肌寒さを感じてきたから、溜息をひとつ吐いて立ち上がる。

「ありがとね」

出来るだけ明るい声色で言うと信ちゃんも立ち上がった。頭を痛いくらい乱暴に撫で髪を乱されると、信ちゃんが先に歩き出した。信ちゃんの家の前を通り過ぎても、黙って私の家へ向かって前を歩く。家の前まで来ると、もう一度頭をわしゃわしゃと撫で『歯ぁ磨けよ』と言うから笑顔を向けて別れた。

信ちゃんの後姿を見送って玄関のドアを掴めば、引く前にドアが開いて驚いた。

『...お前なにしとんねん』

上着を羽織りながら出て来たすばるにただいま、と言って横を摺り抜け家に入る。少し赤みの残る瞼を今は出来るだけ見られたくなかった。階段を上がって部屋へ入りドアを閉めると、すばるが階段を上がってくる音が聞こえる。

するとインターホンが鳴り、すばるの足音は遠くなった。僅かに聞こえる話し声を聞きながら部屋着に着替えていると、階段を再び上がってくる足音。少し急いで服を着るけれど、着替え終わる前にガチャリと部屋のドアが開けられてすばるが部屋に入って来た。

「...ノック」

すばるは何も言わずに私の椅子を引いて座る。動揺を隠してブラだけの上半身にパーカーを羽織れば、その背中に何かがぶつかって振り返る。すると足元にすばるが投げたであろうさっき外したシュシュが落ちていた。

『ヒナが届けに来た』
「...ふーん」
『めっちゃビビった...』
「え?」

思わず振り返ってすばるを見たら、立ち上がってシュシュを拾い上げ手の中で丸めて私に差し出す。それを怪訝な顔で見つめた。

『ヒナにこうやって渡されて、...パンツや思て』

あまりに真面目な顔で言うから思わず少し笑った。けれどすばるは私をちらりと見て、シュシュを机に向かって投げる。

『ヒナとヤったんか思て』
「...そんなわけないでしょ、」
『ヒナん家に居ったんか』
「違う。変なこと言わないでよ」
『変なことちゃうやろ』

会話の内容が内容なだけに、すばるから顔を逸らして制服をクローゼットへ仕舞う。若干熱く感じる顔で振り返るのに気が引けて、そのままベッドへ倒れ込む。

『ヒナこないだ言うてたで。“#name1#家来て俺のベッドで寝よんねん”て』

何故今更そんな事を言われるのだろう。すばると2人で信ちゃんの部屋に行ったっていつもそうしていたのに。
まるで心配されているみたいで、なんだか気まずい。

「...そんなの昔から、」
『もう子供ちゃうやろが』

苛立ちを含んだ様に低い声で言われ、ベッドに俯せのまま思わず振り返る。
...なんなの。何急に怒ってるの。自分だって女の子連れて歩いて、聞きたくないような噂流されてるくせに。ひとりで大人にならないでよ。

「...そんなの、すばるだって、」
『ヒナやって子供ちゃうねん。ベッドの下漁ったらエロ本もAVも出てくるしオナニーだってしてんねんで』

顔がカッと熱くなる。今度は顔を隠す間もなかった。私をじっと真っ直ぐに見つめるすばるから視線を逸らすのが精一杯。

『ヒナだけちゃうねん。俺以外の前でお前今みたいにそんなんしとったら、すぐヤられんで』

すばるは、私が両親に本当の子供ではないと、すばると本当の兄妹ではないと打ち明けられたことを知っていてこんな事を言うんだろうか。兄妹だから心配してやってると言いたくて、急にこんな事を言い出したんだろうか。

「...そんなわけないよ、...嘘だよ、そんなの」

起き上がってベッドの上に座り直し、気まずい沈黙が流れて何も言えなかった。長かったのか短かったのか、どのくらいの時間が流れたのかわからない。ただ自分の体の中に響く鼓動だけを聞いていた。

『...おん、嘘や』

すばるがボソッと言ったけれどそのまま俯いていた。すると視界の端のすばるが動いて、ベッドの前まで来たから顔を上げる。同時に睨むように私を見るすばるに片方の手首を掴まれ引かれたから、反射的に身を固くした。

ぐっと握られた手首が軋む。私を射抜くように鋭い目で見つめるすばるが、乱暴にベッドに座って顔を近付けるから思わず少し後ろに体を引いた。けれど掴まれた手首のせいで近い距離は保たれている。バクバクと鼓動する心臓の音が静かな部屋に聞こえてしまいそう。

『...俺以外、は嘘や。お前相手やったら、俺も同じや』

心臓がドクリと大きく脈打った。すばるの言葉が意味するものと、私のそれとは、もしかすると。

『...お前も、俺と同しなんちゃうか思ててんけど』

今日は色んな事が起こり過ぎる。心がついていかない。複雑に絡み合う感情は、胸の奥深くから熱を集めて瞳へと運ぶ。視界が霞んで思わずすばるから目を逸らして俯くと、手首を掴むすばるの手に涙が一粒零れ落ちた。

『...他人と同じ家には居られへんか』

そんな事、思ってない。他人だなんて思ってない。首を横に振ると目に溜まった涙が次から次へと流れ落ちる。

『...俺は他人や思てへんけどな』

私だってそうだよ。当たり前じゃない。

『けどな、どうしょもないねん』

ちらりとすばるを見遣れば、強くしっかりとした口調のわりに瞳が揺れていたから唇を噛み締めた。すばるのこんな顔、見たことない。今でこそヤンキーみたいだけれど、小さい頃から私のヒーローだったすばるのこんなに弱い姿は初めて見た。

ぎり、と奥歯を噛んで涙を堪えるすばるに言葉はないけれど、何がどうしようもないのか、言いたい事は理解出来た。きっと私も同じだから。
他人ではないけれど、この想いを抱えたまま家族でいなければならないやり場のない気持ちが、きっとすばるにもあるのだと感じた。

視線が絡んで頷いた。理解していることをただ伝えたくて、言葉に出来ないけれどわかって欲しくて、願いを込めて頷いた。

すばるの顔がゆっくりと傾けられて視線が唇に落ちる。私の唇を優しく食んだすばるの唇が僅かに震えていた。触れたまま吐き出された吐息も震えていたから、また目の奥が熱くなる。

『...愛してる、』

大人の真似をした精一杯の愛の言葉に涙が溢れた。引き寄せるように私の頭に添えられた手は、すばるの心の苦しさを表すように私の髪をくしゃりと握る。
まだ高校生になったばかりの私達に先のことなんて何もわからないけれど、今は何も考えずにこのままでいたかった。ふたりでいたかった。捨て去ることの出来ない二人分の想いを共有しながら、苦くて甘いキスに溺れた。


End.

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