隣の安田さん。
『こんばんはー』
「...あ、こんばん、は、」
家に帰ってきたら、隣の安田さんの家を合鍵で開ける綺麗な女の人。
ずきんずきんと胸の痛みが徐々に大きくなって、息が苦しい。逃げるように部屋に入ると、閉めたドアに背を預け座り込んだ。
『おかえりー』
『早かったなぁ。もう来てたんや?』
ドアの外から聞こえた安田さんの声に、更に胸が締め付けられた。
彼女、出来たんだ。知らなかった。...当たり前か。報告し合うような間柄ではないのだから。
『あ、#name1#さんや』
「...あ、こんばんは、」
『一緒に帰りませんか?』
着替えてから行ったコンビニで、安田さんに会ってしまった。あんまり一緒に居たい気分ではなかったけど、断るのも変だから頷いた。
安田さんが私の手からコンビニの袋を奪って『重、』と言って持った。ありがとう、と言うと安田さんの笑顔が私に向けられた。
『ちょっと暗いっすよね、ここら辺』
「...ですね」
『...危ないんとちゃいますー?一人で歩くとか、正直ちょっと、心配......なんすけど、』
心配だなんて。嬉しいけど、今の私にはちょっと辛い優しさだ。
心配ありがとう、と笑って足元に視線を落とした。
『...なんや#name1#さん、今日は元気ないんすね、』
「そんなことないですよ!」
『...自棄酒、って感じ、?』
「は?」
安田さんが持っていた私の買い物袋を持ち上げた。苦笑いして目を逸らした私を、安田さんは無表情で見つめていた。
部屋の前まで来て袋を受け取り、ドアを開けて、おやすみなさい、と言った。何も言わずに立っている安田さんを見ると、少し険しい顔をしていた。
『#name1#さん、』
突然足早にこちらに来た安田さんに腕を掴まれ、部屋に押し込まれた。安田さんの後ろでドアがパタンと閉まる。
『うち、今姉ちゃんおるんで、』
「...姉ちゃん、?...え、」
『俺じゃ、話、聞けないすかね、』
驚いて安田さんを見ると、頭を押さえられて唇がくっついた。持っていた袋がバサっと音を立てて落ちる。すぐに離れた唇を震える手で覆うと、安田さんが少し頬を染めて笑う。
『...もしかして、俺のこと、好き?』
どうしてわかったの?...なんて、聞かなくてもわかる。今、血が上って顔も耳も真っ赤だと思う。
『...もしそうやったら、嬉しいんやけど、なぁ...』
私をチラチラと見ながら言う安田さんの言葉は徐々に尻すぼみになる。
『...今日、一緒に居らせてもらえませんか、?そんなたくさん、飲ませられへんわ、』
「...飲む必要、なくなりました...」
『...どういうこと?』
「お姉さん、なんでしょ、?」
目を丸くして私を見た安田さんが私を抱き締めた。そのまま壁に押し付けられて啄むように唇を合わせる。
突然鳴った携帯を確認した安田さんは、私と唇が触れそうな距離で電話に出た。
『章大?声聞こえたけど、もしかして...“隣の#name1#さん”?』
『おん。今日帰られへんわ』
『そゆこと?よかったね!おめでとう!』
漏れていた声を聞いた疑問を、電話を切った安田さんにぶつけた。
「何で私の事、知ってるんですか...?」
『...何でやと思う?』
微かに触れていた唇をまた合わせながら、安田さんが呟いた。
『ずっと好きやったから』
End.
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