隣の横山さん。
「えぇーー!!」
朝のコンビニで思わず絶叫した。
“ 熱愛 ”の文字と共に、隣の横山さんと一緒に週刊誌に写っていたのは、紛れもなく私だった。
ピンポーン。
帰宅して少しした頃インターホンが鳴った。玄関のドアを開けると、隣の横山さんが立っていた。
『...あの、...見ました?』
「...あー、はい。」
『すんません、この前、気軽に一緒に帰ろうなんて言うてもうて、』
「や、だってたまたま会っただけだし。私は大丈夫ですよ!むしろ横山さん、大丈夫なんですか?」
『...まあ、俺は。...ほんますんません、』
深々と頭を下げる横山さんに、やめてください、と言ったら、苦笑いして私を見た。
『...、引っ越そうかと、思ってます、』
一瞬頭が真っ白になった。
横山さんが、居なくなる?
「...え、い、いつ...ですか、?」
『まだ決めてないんすけど、そうすね、近々、』
「そ、そうですか、」
横山さんが帰ってから、そのまま玄関に座り込んだ。
この環境が気に入っていた。横山さんが好きかどうかなんて考えたことはなかったけれど、物凄く居心地のいい場所になりつつあったのは確かで。
帰宅途中、最寄駅で後ろから声を掛けられた。
聞き覚えのある声に慌てて振り向くと、やっぱり横山さん。
『後でピンポン鳴らしますね』
この間の写真のことを気にしているのか、一言だけ私に告げて、横山さんは人混みに消えて行った。
早く会いたくて、話したくて、すぐに帰宅して、横山さんの家のインターホンを鳴らした。すぐにドアが開くと横山さんは、 良かったら上がってください、と部屋を指差した。
じゃあ少しだけ、と部屋にお邪魔する。正直少し緊張していて、鼓動が速い。
招き入れられた部屋には、いくつかのダンボール。それを見たら急に、切ない気持ちでいっぱいになってしまった。
座って、と言われたけれど、どうしても落ち着かなくて立ったままで聞いた。
「...日にち、決まったんですか、?」
『...迷ってます、』
「...忙しいですもんね、」
『いや、あの、引越すこと自体を...』
「...あ、そうなんですか、」
『...俺、ほんまにここ、気に入ってて...引っ越すの、抵抗あるんすよね、』
それを聞いて、心の中で願ってた。
お願い、ここに居て。行かないで。
口に出して言えたなら、運命は変わるのだろうか。
きゅうきゅうと痛む胸を押さえて俯いていると、横山さんが私の前に立った。
顔を上げたら横山さんと視線が絡みすぐに逸らされた。横山さんが戸惑ったように頬を掻いて、泳いでいた真っ黒な瞳が再び私を捉えると、私に言った。
『あの記事、現実にしませんか、』
真っ直ぐに横山さんと絡んだ視線が離れない。放たれた言葉を理解すると同時に、横山さんがまた続けて言う。
『...この環境、っちゅうか...#name2#さんのこと諦めんのは、やっぱ俺、無理やわ...』
横山さんが揺れて霞む。
痛んでいた胸が、甘く痺れた。
『...そんな泣かれたら、期待してまうやん、』
一歩近付いた横山さんがゆっくり私を引き寄せ、優しく胸の中に閉じ込めた。横山さんを見上げると、静かに唇が重ねられた。
『...好きなんです、ほんまに、』
「...私もです。付き合ってもらえますか?」
『...それ俺が言わなあかんやつやん、』
「...ダメなの?」
『付き合います、』
「...何それ。」
『幸せに、したるわ』
End.
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