Purple
『お前何しとんねん!』
「...す、すみませ、」
『何回言わすねん!アホ!』
『...信ちゃん、もうええんちゃう、?』
『ええことないわ!迷惑掛けてるやろ!』
『...#name2#さんもわかってるよなぁ、?』
「...すみませんでした、」
またやらかしてしまった。この仕事に就いて1ヶ月弱。入り時間を間違えてしまったのは二度目だ。
約1ヶ月前。
『おはよー、...誰や?』
「あ、は、はじめまして、#name2#です!」
『あー、アレか、昨日言うとったわ。新しいマネージャーやんな?』
「はい!よろしくお願いします!」
『こちらこそお願いしますー。』
き、緊張した!村上さん、かっこいい!...実はファン。当たり前だけど、事務所には黙っている。
今日からこんな近くで仕事が出来るなんて!
メンバーの皆さんにあいさつを済ませ、とりあえず村上さんをガン見している。
...あ、脱いだ!筋肉やばい!
一人でにやけそうな顔を引き締めてスケジュールの確認をする。まだ見習いで雑用みたいなもの。1人ではとてもじゃないけれど動けない。指導を受けながら現場を覚えるのが目的。
『今日この後どこ?』
「...あ、あ、!えっと...」
『赤坂やで』
『おー、ありがとう』
「...あ、そうです、すみません、」
『まだ初日やからなぁ!吉田さんからしっかり勉強せんとな!』
「あ、はい!すみませんでした!」
...さっそくダメな所を見せてしまった。ちょっとしたミスが命取りになるこの世界で、村上さんの生着替えを見てテンションを上げていた数分前の自分を悔やむ。
早く仕事が出来るようになって、頼られるマネージャーになる、と心に誓った。
誓った...はずなのに、あの時から何も変わっていない自分に嫌気がさして涙を堪えた。
怒られたからじゃない。自分の不甲斐なさに。
『泣いてる場合ちゃうで』
「はい。...わかってます」
村上さんは横を向いて私の頭をぽんぽんと叩き、楽屋を出て行った。
いくら怒っても、必ずフォローしてくれる村上さんは優しい。けれど、それを嬉しいと思ってしまう自分は、まだまだダメだ。タレントに気を遣わせるようなマネージャーなんか、いいわけがない。
何度も何度もスケジュールをチェックした。朝はだいぶ早く家を出て、準備をしてメンバーを迎える。タレントの売り込みや挨拶回り、わからないことは先輩に何度も指導を受けて、自分なりにも勉強した。
努力しなければ変われない。
『最近#name2#さん頑張っとるなぁ『全然ミスせえへんようになったしな』
『信ちゃんに怒られたからちゃう?』
『あはは、そうかも!』
『最初からでけへん思う奴には言わんで?あいつ出来るやん』
『せやな、いつも一生懸命やもんな』
『けどさぁ、なんかやつれてへん?』
『そうかぁ?』
『飯食うてんのかな』
『今度飯誘ってみいひん?』
楽屋をノックしようとする手を思わず止めて、会話を聞いていた。嬉しすぎで涙が出そうで踵を返しトイレへ向かう。
やっぱり、この仕事辞めなくて良かった。がんばってよかった。
「お疲れ様でしたー。またよろしくお願いします」
先に仕事を終えた共演者さんのマネージャーさんに深々と下げた頭を上げた。
あともう少し。今日は少し早い。最近寝不足気味だったから、早く帰って休もう。
楽屋のドアノブを掴む前にドアが開いて、私を見た丸山くんが笑顔になった。
『#name2#さん!今日一緒に飯行かへん?』
『最近あんまり食うてへんのちゃう?』
「そんなことないですよ!...あ、今日は、」
突然視界が歪んだ。あれ、おかしい。
どうしたんだろう。
目を開けると見慣れない天井だった。
すぐにその視界に現れたのは、私を覗き込む村上さん。びっくりして飛び起きると、村上さんも驚いた顔をしていた。
『すんませーん、起きましたー』
大丈夫ですか?と笑顔で私を覗き込んだ女性に脈を計られ、矢継ぎ早に質問される。事態がよく飲み込めずしどろもどろな私に向かって村上さんが言った。
『医務室やで。テレビ局の』
私の疑問を聞くことなく答えた村上さんに、そうですか、と呟いて時計を見た。...あれから2時間も経っている。
「...ごめんなさい、あの、」
『ええよ、俺は今終わって来たとこやし』
帰っても大丈夫ですよ、と言われたから頭を下げて医務室を出た。
『飯食うてへんのやないかてヤスが言うとったけど、そうなんか?』
「...食べてはいたんですけど...すみませんでした...」
『それはええねん。...心配したやん』
村上さんを見ると、少し耳を赤く染めていた。それを見たら私まで顔に熱が集まった。
先輩マネージャーさんに電話で報告を済ますと、村上さんを送るから待たせろと言われ、私はすぐに帰宅するように指示を受けた。
『なんやて?』
「楽屋で待たせろって…」
何度か頷いた村上さんが楽屋の扉を開いた。先輩が来るまでここに居ようと一緒に楽屋に入ると、村上さんが振り返って私に目を向けた。
『...無理してたんやろ』
「...そういうわけじゃないです、」
『めっちゃ頑張ってたんはわかってんで』
「...いえ、まだまだです、」
『......そういう一生懸命なとこ、...好きやわ』
驚いて、俯いていた顔をバッと村上さんの方に向けると、目も合わせずに頭を掻きながら携帯を取り出した。
『...おつかれさん。俺、飯食うてくから自分で帰るわ』
先輩マネージャーさんに電話を掛けている村上さんの横顔を盗み見ていたら、こちらを見た村上さんが顎をしゃくる。明日のスケジュール確認をして電話を切ると、顎で指して部屋から出るように促された。
『飯、連れてったるわ。家まで送ってくから、ええやろ?』
「.....はい、」
嬉しくて、思わず口元が緩んでしまった。すると村上さんが呆れたように笑うから、気付かれてしまったのかもしれない。
村上さんの手が頭に乗った。掻き回すように頭を撫でられ思わず目を閉じると、突然肩を引き寄せられ一瞬だけ唇が触れた。
思わずぱちりと目を開けた私からすぐに顔を背け、キャップを被り直した村上さんが楽屋の扉を開ける。
『さ、行くで』
慌てて追い掛けて見つめた村上さんの耳はやっぱり真っ赤で、その後ろで密かに私も顔を赤く染めていた。
『...もうちょっと、仕事に慣れてからやな』
呟くように言った村上さんの言葉に胸が高鳴る。
二人が付き合うのは、もう少し先の話。
End.
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