メルト
今日は友人との飲み会だと伝えてあったはず。言ったのは3日前だったけど、忘れたんだろうか。
さっきの不機嫌な電話のせいで、私は今、予定よりも大分早く飲み会を切り上げてタクシーの中だ。
『...#name1#?』
「どうしたの?仕事のこと?」
『うち、来て』
「え?...今は無理だよ、まだ始まったばっかりだし、」
『...それやったらええわ』
一方的に電話が切られてから1時間弱。どうしても亮の様子が気になって、亮の部屋に向かう。
インターホンを鳴らしても応答がない。居留守はよくあることだから、仕方なく合鍵を出して部屋に入った。
部屋は真っ暗で、亮がいる気配はない。
寝室を覗くと、広いベッドの上に小さく丸まった亮を見つけた。ベッドに近付いて顔を覗き込んだけれど、眠っている。
呼んでおいてそりゃないよ...と思いつつ、遠慮がちに声を掛ける。
「...亮、来たよ」
ピクリとも動かないから、そのまま布団を掛けてリビングの電気を点けた。
シャワーを借りてリビングへ戻り、もう一度寝室を覗くと、亮はさっきから全く動いていない気がする。疲れている、と言えばそうかもしれないけれど。
...なんかすごい汗。心配になって軽く肩を揺すった。普段より幾分か熱く感じる体温に、そういうことかと納得した。
薬はどうせないんだろうし、スポーツドリンクも買った方がいいかな。あ、でも今開いている薬局なんてこの辺にないし...。リビングでバッグを持ったまま考える。
『...#name1#ー...?...居るん?』
亮の声がして寝室に向かった。
仰向けになった亮が両手を広げて私を見ている。
「電話ついでに言えばいいのにー」
『ちょーっと声聞いたろ思っただけやし』
「............。」
『...来て』
「薬、探して来なきゃ」
『取り敢えず、来てや』
手を広げたままの亮の前に行くと、手を伸ばして待っている。けど、きっと捕まったら最後だ。
『...この手の行き場、どうしてくれるん?』
「薬が先ー!」
『嫌や。薬嫌い』
「...子供じゃないんだから、」
『子供ちゃうけどいらんし。寝たら少し楽なったし。...せやから、来て』
諦めて手を伸ばした。口元を緩めて私の手を握った亮が、手を引き倒れ込んだ私の背中に腕を回し抱き締める。
『...抜けて来てくれたん?』
「...だって、...気になって」
『めっちゃ愛されてるやん、俺』
「......当たり前でしょ」
いつもより甘えた感じの亮が愛しくて、背中に回した手に少し力を込めて首筋に顔を埋めた。
『...熱あるのに、シたいんや?』
「...ち、違う!」
『今日はあかんてぇ...』
「...だから違うって!」
『え、...今のはアレやん、焦らしやんか』
「しないよ」
『汗かいたら熱下がるやん』
「寝て汗かくと下がるの。暴れたらダメ」
『暴れる...?そんなん思てたん?...なんかいやらし』
「バカ!」
少し眉を下げた亮が唇を尖らせ拗ねたように見せる。
...本当に今日は、いつもと違って可愛いなぁ。
尖らせた唇に軽くキスを落とした。
『むっちゃ誘ってるやん!』
「誘ってるんじゃない!」
『“我慢出来なーい”とか言うてや。そしたら俺、めっちゃ頑張るで』
「...頑張らないで寝ようよ」
睨むようにまっすぐ見つめられている。突然頭に手が触れ引き寄せられると、塞がれるようにキスされた。そのまま横に転がって、あっという間に上に亮がいる。
『...我慢出来ひん』
「...自分で言ってどうすんの」
『...ヤるしかないやろ』
いつもよりもとろんとした目の亮が、腰に手を這わせながら再び深く口付けた。
亮の熱い体温に私まで溶かされてしまいそうで、亮の背中に腕を回して必死に縋りついた。
End.
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