connect heart
マネージャーに『先に戻ってて』と言われて、一人テレビ局の中を歩いていたら、自分の楽屋の近くに前に共演したことのある年下の女優の名前を見つけた。あの頃は大分子供っぽかったけど、最近テレビで見かけたら随分大人になっていて驚いた。
共演したのは随分と前の事だし、挨拶は止めて楽屋に入った。
いつもはメンバーが居るけれど、今日は一人だから楽屋が静か過ぎるくらいだ。
すると楽屋のドアがノックされ、#name1#が入って来た。
「今日何時に帰れるん?」
『今日は21時』
「俺やなくて#name1#が」
『..............。』
「...#name2#さん、が、」
『確認しないとわかりませーん』
「しといてくださーい」
『まだ時間あるから待ってて。ちょっと出てくる』
「はーい」
せっかく二人なのだからキスくらいしたかったけれど、楽屋で手を出すと怒られるからしないようにしている。出来るだけ。
自分が振り回していると思うと少し嬉しいから、手を出したくなる。困らせてみたくなる。
音楽プレイヤーのイヤホンを耳に入れて携帯を弄っていると、ドンドンとドアを叩く音が聞こえたから慌ててイヤホンを引き抜いて返事をした。
ドアが開いて隙間から覗いたのは、さっき名前を見掛けた女優だった。俺の顔を見て笑顔になったその子が楽屋に入ってきた。
『安田さん!お久し振りです!』
「わー、ほんま久し振りやね。めっちゃ大人んなってるやん!」
『あはは、そうかな?安田さんもすっごいかっこよくなってるー!』
「えー俺は変わらんやろー」
『私あの時、好きだったんですよ、安田さんのこと』
一瞬だった。こっちに駆け寄ってきた彼女の腕が俺の首に巻きついて、唇が重なった。
“ うわー、まじか ”と思ったけど、突き飛ばしたりしたら傷付くかな、とか、あんな子供だった子がこんなんなるなんて芸能界は怖いなあ、とかやけに冷静に考えていた。そうしたら舌を絡めようとしてきたから、さすがにまずいと思ってやんわり肩を掴んで離した。
「他の人相手にしてもらえると助かんねんけどなぁ」
『...迷惑でした?』
「...せやな」
『...失礼しました!』
明らかにムッとした態度で俺を睨むように見たその子が、ドアを勢い良く開けて飛び出した。
...無理矢理したくせに、あの顔なんやねん...
妙にイラついて思わず舌打ち。溜息をついて唇を拭うと、またドアがノックされた。
返事もしないうちに#name1#が入って来て俺を見たから、なんとなく俯いた。
『...章大』
普段、仕事中には絶対呼ばれることのない呼び方で呼ばれたことに驚いて#name1#を見た。
#name1#は自分の口を指差している。
『...付いてる』
何が?なんて聞いたりしなくてもわかる。グロスだ、絶対に。
#name1#から目を逸らしてもう一度口元を拭った。自分の手の甲に付いたグロスを見て、目を閉じて盛大な溜息をついた。
#name1#なら大丈夫だと思う。ちゃんと話したら信じてくれるはず。
だけどさっき、こんなところで俺を名前で呼んだ辺りからして、酷く動揺しているのは間違いない。
『浮気ちゃうで』
「...わかってるよ」
『俺からしたんちゃうし』
「...今する話じゃないよ」
誰に聞かれるかわからないから。そんなこともう何十回も聞いた。けれど、今言わなくてどうするんだ。
謝ることはしなかった。謝ったら、変な気持ちがあったみたいに思われる気がして、謝れなかった。
立ち上がって、メイクオフ用のコットンで唇を綺麗に拭った。
ちらりと#name1#をみたら、さっき入ってきた時と同じドアの前に立ったまま書類に目を通していた。#name1#の手が口元に触れている。#name1#の癖だ。落ち着こうとしているのだと思う。
俺が近付くと#name1#が顔を上げた。首を傾げて俺を見たから、引き寄せて抱き締める。
『...ちょっと、』
「わかってるわ」
片手で抱きながら、ドアの鍵を閉めた。#name1#が俺の肩を押したから、ますます強く腕の中に閉じ込める。
『...離して』
「...無理。...俺このままやと仕事出来ひん」
『何言ってんの、』
「#name1#が消してや。さっきの全部、#name1#が消して」
少し体を離して#name1#を見たら、やっぱり戸惑っているようだった。
次の瞬間、俺の頬が掌で包まれて、キスをした。軽く触れて離れた#name1#の唇が弧を描いた。
『...もう大丈夫でしょ?』
さっきより幾分か明るくなったように見える#name1#の顔に、少し安心していた。
#name1#の手が伸びてきて、親指が触れた。俺の唇についたグロスを#name1#の親指が綺麗に拭い取っていく。手が離れた瞬間に#name1#の手を掴んだ。そのままドアに押し付けて少し乱暴に唇を重ねた。そうしないと逃げられてしまいそうな気がしたから。
んっ、と声を漏らした#name1#に体を密着させ舌を絡めていると、楽屋のドアがノックされた。
慌てて俺を押した#name1#を片手で抱いて、唇を手の甲で拭ってからドアをほんの少し開け顔を出した。
『安田さん、あと10分程です!お願いしまーす!』
「はーい。わかりましたー」
ドアを閉めて鍵をかけてから#name1#を見れば、今度こそ押し退けられて、少し離れてから睨まれた。
『やりすぎ!』
「ええやん、今日は二人やねんから」
『ダメ!』
「はいはーい」
『......今日、22時頃には終わる、』
#name1#を見ても目は合わなかった。なんとなく、感じるものがあった。それが不安なのか戸惑いなのかわからないけれど。
「一回帰って迎えに行くわ」
俺に向けられた笑顔もいつもと違う気がして、もう一度抱き締めた。
焦っているのは俺の方だ。とにかく必死だった。
『...だから、...もういい加減、』
言葉を遮り頭を支えてキスをした。舌を絡め吸い上げて離すと、#name1#が苦笑いした。
#name1#を解放して、また唇を拭おうとした手が掴まれた。
『拭きすぎだよ。赤くなってる』
「そのまま出てってもええの?」
俺が笑ったら、#name1#も笑った。その笑顔はいつも通りで、#name1#の指が口元に付いたグロスを俺の唇に馴染ませるように塗り広げた。
ちょっと調子に乗って楽屋を出る時に#name1#のケツを撫でたら、平手が飛んできた。
「...めっちゃ痛い、...唇よりこっち赤くなったらどうすんねん、」
『一応加減しましたから』
「...そういう問題ちゃうやろ、」
『...帰ったら、しようね、』
やっぱり、振り回されているのは自分なのだと思い知らされた。
けれど、そんなのどうだっていい。ただ、ずっと俺だけを見ていてくれれば。
End.
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