これから事務所に寄って車を返したら、今日の仕事は終わり。
目まぐるしく動く毎日について行くのが精一杯で、横山くんとは仕事以外でまだほとんど会えていない。
2時間前に先に仕事を終えた横山くんから電話が来たのは、自分のマンションの駐車場に着いた時だった。
「もしもし」
『あー、ごめん、今どこ?』
「今家に着いたとこ。駐車場」
『...あー...まじか、』
「どうしたの?」
『...や、その、』
部屋の鍵を取り出し、歩きながら話していると、言いにくそうに急にしどろもどろになった彼に首を傾げる。
「...仕事の話?...私用?」
『んー...両方、って言うていいのかわからんのやけど...』
電話しているからエレベーターではなく階段を上がってフロアに出ると、部屋のドアの前に人影が見えた。あれは、もしかしなくても。
「ちょ、な、...何してんの、」
『......鍵、無くしてもうた、』
「...またぁ?」
『...すんません、...だから、事務所に鍵あるんやないか思て電話してん、』
「...どうしよ、」
『...泊まるとか、あかんの、?』
私だってそうしたい。けれど、こんなところを誰かに見られたら大変な事だ。
「もう一回、事務所、」
言い掛けたところで腕を掴まれ、ちょっとドキッとしてしまった。
『...ええやん。俺らいつまでこのままなん、...こんなん、今までと何も変わらへんわ』
見つめられて、何も言えなくなった。
本当にそう。私達は何も変わっていない。付き合う前のセックス以来、触れ合うこともないし、キスだって数える程しかしていない。
手に持っていた鍵を差し込んだ。鍵を開けて周りを見回してから、横山くんの背中を押す。
部屋に上げるのは始めて。だから自分が慣れた空間に横山くんが居るのは、たまらなく違和感がある。
突ったったままの彼に、座って、と言うと、んー、と曖昧に返事をして立ったまま部屋を見回した。
何だかどうしようもなく緊張してしまう。ソワソワしながらお茶を煎れていると、横山くんが横目で私を見た。
『仕事ちゃうねんから、気ぃ遣わんで。...こっち、来て』
ソファーに腰を下ろした横山くんが、照れているのか少し顔を赤らめながら私の顔を見ずに言った。
煎れたお茶を持ってテーブルに置くと、緊張で手が震えた。
顔を逸らしたまま私の手を掴んだ横山くんに手を引かれ、ソファーへと腰を下ろす。
顔ではなくて、私の唇を見ている視線にドキドキしていると、顔が近付いてきた。
『...何時ぶりやねん、いい加減キスくらいさせてくれや』
触れる直前に呟かれた言葉に胸が甘く締め付けられた。触れてすぐに離れると、抱き寄せられて再び触れ合う。求め合うように何度も離れては触れてを繰り返して、抱き締め合った。
『毎日会うてんねんで』
ぬるくなったお茶を啜りながら横山くんが言った。首を傾げると、気まずそうにしながら一瞬だけ私を見遣る。
『毎日会うてんのになんも出来ひんとか、生殺しやん』
「...生殺しって、」
『#name1#はええの?』
久々に呼ばれた『#name1#』にドキドキする。いいわけない。私だって触れたいと思っている。
「...よくないよ、」
『...ほんなら、たまに来る』
「...でも、家だと、」
『外なんか、キスも出けへんで』
「............、」
『...そんな焦らし方すると、また鍵無くなるで』
横山くんのポケットから出てきたのは、まさしく横山くんの部屋の鍵だった。驚いてしばらく固まった後、騙したの?と言おうとした言葉はキスに飲まれた。
End.
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