Green
『...すんませんでした、もう、こんなことないようにします、』
「申し訳ありませんでした」
呼び出されて二人で説教された。
大倉と安田が週刊誌に撮られた。大倉は、事実ではないと言った。ただみんなで食事に行っただけだと。二人一緒にいたのに、別々に違う女の子と撮られているその写真。
謝罪して、深く反省した様子で部屋を出た。
エレベーターを待っていても、何も話さない大倉が心配で声を掛けようとしたら、エレベーターがきてドアが開いた。大倉を押し込んでから自分も乗り込んでボタンを押し、大倉を見る。
『はぁー疲れた!あのおっさんめっちゃ腹立つ!何回違う言わすねん!』
「.............。」
『あ、ヤスにメールしとかな!』
さっきの心配を取り消したい。溜息をついて大倉に冷ややかな視線を送ると、視線に気付いた大倉が携帯の画面から視線を恐る恐る私に移した。
『...すいません…一緒に謝らせてもうて、』
「...いいえ。」
『...怒ってます?...よね、』
「ます。」
『...ほんますんませんでした、』
「...いいえ。」
『あ、あの、#name2#さん!飯、行きましょ!奢りますよ!』
「行きません」
『だって女の子誘ったらあかんのやろ?寂しいやん』
「...だから私を?」
『...や、そういうわけやなく、』
事務所の車に乗り込むと、普段は座ることのない助手席に大倉が乗り込んだ。ニコニコと私を見て笑っているから、もう何も言わずに放って置いた。
『どこ行きますー?』
「行くって行ってないけど」
『何食べますー? 』
「だから行くって言ってな、」
『だって行くでしょ?』
いつも有無を言わせないのは得意だと思う。物凄く楽しそうに話しているから、この様子だとさっきの説教はもう頭の片隅にだって残ってはいないんだろうと思う。
私は、少し気にしていた。
タレントのプライベートに首を突っ込むことはあまりしたくない。けれどそれとは少し違っていて、私が知りたいけど知りたくないとか思ってしまうのだからタチが悪い。
その感情がどういうものかなんて考える必要はない。考えてはいけないん。
大倉の行きたかったというお店でごはんを食べた。私は車だから、大倉に飲んでもいいからと勧めた。
少し酒が入って、大倉が週刊誌の愚痴なんかをこぼしていたから、メンバーの前で文句を言ったりしないように、ただ黙って聞いた。
散々『あのおっさん腹立つ!』だの暴言を吐いていた大倉が、急に声のトーンを落とした。
『や、でも、あの記事はほんまに違うんですよ、』
「...なにが、」
『...付き合ってるわけやないし、寝たわけでもないし、』
それを聞いて小さな溜息が漏れた。
ちょっと安心してしまった自分が嫌だ。
『...安心しました?』
ドキリとした。
そういう意味で言ったんではないとわかっているけれど、今自分が考えていた事が伝わってしまったような気がして緊張が走った。
「...うん、安心した」
何でもないみたいに、そう答えた。
大倉は私をじっと見てから、ふっと笑って料理に手をつけた。
翌日。
起きてこない。迎えの時間を10分過ぎたから電話してみるけれど、出ない。
仕方なく部屋に行ってインターホンを鳴らす。それでもダメだから合鍵で部屋を開けた。
部屋を捜索するとすぐに、ベッドでモゾモゾ動く大きな塊を見つけ、布団の上からグーで殴った。
『...痛、』
「時間過ぎてるよ。早く!」
『...まだええやん、』
腕を掴まれたと思ったらそのまま引かれ、ベッドに引き摺り込まれたから驚いた。すごい力。腕が離され抱き寄せられると唇が触れた。
「...大倉!」
『...はい、』
「誰と間違ってんの、」
『..............、』
やっと腕が離れ解放された。
動揺してる。鼓動が早い。けれど気付かれないように。ただそれだけ。
「10分以内。早くね」
顔も見ずにすぐに部屋を出た。深呼吸して落ち着こうと必死の自分に苦笑いが漏れる。
10分もしないうちに車に乗り込んで来た大倉が、『すいません、遅くなって』と言ったから、適当に返事をして車を出した。
今まで寝ていたわりに、髪型も服装も思いのほか整っていたことに少し関心した。ミラーでチラリと見たら、不貞腐れたような顔をして外を眺めていた。
しばらくして、大倉が唐突に言った。
『...起きてたんすよ』
「は?」
『...間違ったんちゃいますからね』
何の事かと考えてすぐに答えが出た。
“ 誰と間違ってんの、”
あの言葉しかない。
『...昨日、俺が勇気出して言うた言葉、あっさり返されて腹立ったから、キスくらいしたろ思て』
「...何言ってんの、」
『...でも、遅刻はすんませんでした』
「...大丈夫、間に合う。もう着くし」
胸が痛い。そんな、私のことが好きみたいな言葉。
何も話さなくなった大倉を、信号待ちで振り返って見ると視線が絡んだ。
『好きです。顔見て言いたかったから、こっち見るの待ってた』
リアクションする暇もないくらいすぐに、青やで、と言われてアクセルを踏んだ。
ドキドキして震えた。ハンドルを握る手も、深呼吸のために開いた唇も、震えていた。
現場について車を止めると、車から降りた。また腕を掴まれて動揺して鍵が手から滑り落ちる。
『...今の#name2#さん見てたら、同じ気持ちなんちゃう?とか思ったんやけど』
なにか言わなくちゃと思うほど焦って無理。
『...好きちゃうんやったら、帰りまでに俺のこと好きになっといて』
耳元に唇を寄せて言われて、肌がゾクリと粟立つ。微笑んで腕を離した大倉が私をその場に残し、先に建物へと歩いて行った。...絶対に気付いてる。もう、私の気持ちを彼はしっている。
撮影の合間、何度も絡む視線にいちいち鼓動を早めながら、覚悟を決めた。
End.
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