euphoria


Black


昨日、酔った勢いってやつを生まれて始めて経験した。
今まで酒を飲んでも記憶をなくしたりしたことがない私は、いくら酔っていてもヤっちゃったりすることなんて絶対ない!と思っていたのに。

確かに私は酔っていた。でも歩けないほどではなかったし、記憶がないわけでもない。
行為は最初から最後まで覚えている。でも、気付いたら抱かれていた。
シよう、と言われたのも覚えている。なんで、うん、と言ってしまったんだろう。なんで、寄りによってあの人と。


『おはよー#name2#ちゃん』
「おはようございます!」
『...おはよ』
「...おはようございます」

すばるくんと一緒に入って来た横山くんと、一瞬だけ目を合わせて逸らした。どうしよう。気まずい。

昨夜、気だるく余韻が残るまま目を閉じた。
目が覚めたら夜中で、隣で寝ている横山くんの顔を見たら、急に我に返って怖くなった。だからすぐに服を着て、声を掛けることもなく横山くんの家を後にした。

ソファーに荷物を置いて座った横山くんを盗み見る。横山くんは、昨日のことを覚えているだろうか。
いつも通り楽屋では静かで、普段と様子が変わらないから全くわからない。

『おはようございまーす。あ、#name2#さん、昨日大丈夫やった?ちゃんと横ちょに送ってもろた?』

挨拶しながら入ってきたやすくんの口から出た名前に動揺する。

「...あ、大丈夫、」
『ほんまー?ならよかった!俺昨日あれからな、』

心臓が煩い。ヤスくんの話を聞きながら笑っていると視線を感じた。
横山くんと目が合ってすぐに逸らされた。今の会話は聞こえていたんだろうか。

急にやすくんが会話を止めた。私を見て、口をパクパクさせているから首を傾げた。

「え、なに、」
『...それ、』

また言葉に詰まったやすくんが伺うように周りを見回した。すると、ちょっと、と手を掴まれ部屋を出る。
廊下のちょっと先まで行ったところで手を離したやすくんが、言いにくそうにしてから私の耳元に唇を寄せて、本当に小さな声で言った。

『それ、横ちょやろ、?』
「...え、」
『...首、...キスマーク、』

はっとして首元を手で隠した。
どこかもわからないし、今更隠してもしょうがないのだけれど、とりあえず隠した。

『ちょ、ちょっと、待ってて!』

楽屋の方に走って行ったやすくんがすぐに戻って来て、手を引かれて物陰に隠れた。
『首見せて!』と言われて大人しく見せると、手に持っていたコンシーラーを私の首元にぽんぽんと指で乗せていく。

『昨日、横ちょと#name2#さん一緒に帰ったの、みんな知ってるやんか。...だから隠しとこな?』
「...ありがとう、」

見られたのがやすくんで良かった。
本当はやすくんにだって知られてはいけないことだけれど、そう思わずには居られなかった。

『これで大丈夫かなぁ、』

やすくんが顔を近付けて首元を覗き込んでいる。とんでもないことをしてしまったと、改めて感じていた。

『...何してるん』

驚いて二人で振り返ると、怪訝な顔をした横山くんが立っていた。

『...なんや、横ちょか、』
『...なんやってなんやねん』
『...や、びっくりしたから』
『...何してん、こんなとこ隠れて』

その言葉を聞いてやすくんが私を見た。また私の耳元に近付いて
『ヤキモチちゃう?』
と言って苦笑いし、横山くんの方へ歩いて行った。そして横山くんに耳打ちすると、私を振り返り笑顔を向けて楽屋へと戻って行った。

二人で取り残されて何を話せばいいのかと、チラリと横山くんを見たら真っ赤な顔で俯いていた。

『...ごめん、』
「え?」
『......首、』
「...あ、うん、」

やすくんが言ったんだ。
横山くんは私と目を合わせないまま頬を掻いて、言葉を探しているみたいだった。

『...昨日、いつ帰ったん、?』
「...一時くらいに目、覚めたから、」
『...気付かんとごめんな、』
「...ううん、私が、勝手に...」

どうしよう。何を話していいかわからず気まずい空気が漂う。
責任を取れなんて言うつもりはもちろんないし、これからどうするか、なんて言ったってどうしようもない。
大人だから、そのくらいわかってる。
ましてや、この仕事をしていれば当然のことだ。

横山くんが移動しようと言うから、少し目立たない場所に移動した。
周りを気にして見回してから横山くんが言った。

『...なんで、』
「......え、」
『なんで俺と寝たん?』
「...それは私の台詞、!」

言ってしまってから、後悔した。
横山くんが驚いた顔で私を見ている。
これじゃあ、私の気持ちがバレてしまう。今まで密かに心の中に閉じ込めてきたのに。
なんで寝たかなんて、好きだからに決まっている。

『...それは、』

言葉に詰まっている横山くんの顔の前に手を出した。

「言わなくていい!この話は、お終いにしよう!」
『...は?』
「大人だもん。色々あるよ。こんなんじゃ仕事、...」
『そんなん無理や、』

手を掴まれてびくっと体が揺れてしまった。心臓の音、聞こえちゃいそう。

『俺は、秘密に出来るで。...ヤスは、あいつは言わへんわ。大丈夫』
「...秘密って、」
『...ずっと好きやったんや。...このまま終わらせられへん』

掴まれている手が痛いくらいに強く締め付けられる。横山くんを見たら、いつもみたいに視線が逸らされることはなくて、まっすぐに見つめられていた。

『...嫌や言われても、無理やで』

手を引かれて抱き締められた。
すぐに唇が重なって、昨日を思い出させるようなダメ押しの深いキスに、完全に落とされた。


End.

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