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少し気持ち悪いとは感じていた。けど自意識過剰かもしれないし、やんわりと躱していればいいと思っていた。
トイレ、と言ったら近付けられた唇が耳に少し触れて『早くね』と囁かれたから急いで立ち上がる。
...気持ち悪い。やっぱり、ほんっとに気持ち悪い。
みんなの後ろを通って個室の襖に手を伸ばすと、反対の手を突然掴まれたからびくりと体が揺れた。
『なぁ、もう帰るん?』
振り向けば、章大が座ったまま私の手を掴んでいる。さっきのとは違う意味で、ちょっとだけドキッとしてしまった。
「トイレ行くだけ」
『そうなんやぁ』
「うん」
章大が頷いて手を離し私に笑顔を向ける。
...章大の隣がよかった。ずっとあの人の隣に居たって楽しくないし、今日はあの人のせいで章大と全然話せていないから。
気付けば笑みを浮かべたまま私をずっと見ているから、何だかちょっと恥ずかしくなって小さく手を振った。
「行ってくるね」
『あ、待って』
再び私の手首を掴んで止めた章大がその手を軽く引くから首を傾げると、小さく手招きして手が離された。章大の脇にしゃがみ込むと、章大が私を覗き込むように顔を近付けるから驚いた。
「...何、?」
章大の目が私の後ろ側へちらりと動いて、また私へと戻って来る。
『戻ったら、こっち座って』
「え?」
私を伺うように覗き込んだその目が、逸らされることなく私を見つめているからドキドキしてしまう。
『隣の奴、さっきからめっちゃ触るやん』
まさか見ていたなんて思わなかった。
思わず言葉を失って目を逸らすと、章大が自分の横にポンと手を置いた。優しい笑みを浮かべたまま、目を合わせるように更に私を覗き込む。
『せやからあっちはやめて、俺の隣。...な?』
胸がきゅんと締め付けられるように痛んで、頷くことすら忘れた私に章大が頭を撫でて促す。
『ほら、はよ行っといで』
今度はその大好きな笑顔に頷いて立ち上がると、どうしようもなく火照る真っ赤に染まった顔を背けて、幸せで緩む口元を掌で覆った。
End.
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